TALES OF THE QUINTANA ROO

『すべてのまぼろしはキンタナ・ローの海に消えた』ジェイムズ・ティプトリー・Jr.(ハヤカワFT)読了。


 あれでおしまいだと思っていたプラチナファンタジーの新刊にして、
 久々のティプトリーの新刊。


 メキシコ、キンタナ・ロー州の浜辺に流れ着く、"私"が聞いた不思議な物語を描いた連作集。


・『リリオスの浜に流れついたもの』
 波に漂う美女を助けた青年。
 しかし、岸に上げるとそれは男。
 彼は助けてくれたお礼にと、腹の皮膚に隠した巨大な宝石を手渡す。
 もう一度見ると、やはり女のようにも……
・『水上スキーで永遠をめざした若者』
 漁船の船長をしている老人。
 彼が若いとき、その親友がジェットスキーで湾を渡ると言ってきた。
 猛スピードでモーターボートを走らせ、
 ゴールが見えてきたとき……
・『デッド・リーフの彼方』
 食事で相席になった紳士。
 彼が以前、スキューバ中に出会った恐怖とは……


 全ての話が、結局なんだったかわからないまま終わるのが、かえって不気味。
 題名のとおり、全ては幻なのか、それとも……
 アジア的な熱帯とはまた違う、海の冷たさとジャングルの暑さが感じられるような作品。


 最後の『デッド・リーフの彼方』がよかったかな。
 気持ち悪いとかじゃなくて、なんともぞわぞわする、嫌な感じの作品。
 海の中に漂う何か、ってのは生理的に怖気が走る。


 解説にティプトリーの略歴が載ってんだけど、
 改めて、この人の人生そのものがフィクションみたいだよなぁ。