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むずかしい年ごろ

むずかしい年ごろ

『むずかしい年ごろ』アンナ・スタロビネツ〈河出書房新社

6歳の双子の兄が「蟻」に侵され、10年の年月をかけて徐々に醜く変身していく。やがて双子の妹と母親に訪れる残酷な結末…中編「むずかしい年ごろ」ほか、革命と呼ばれる殺戮のなか、生き残った者が人造人間を購入する黙示録的未来小説「生者たち」、列車の中で目覚めた男が別世界に迷いこむ「家族」、心臓が止まっても生き続ける男の不条理小説「ヤーシャの永遠」、異物に取り憑かれた女の話「待っている」ほか7編を収録した作品集。現代ロシアのホラー作家による衝撃デビュー作。

収録作品
「むずかしい年ごろ」
「生者たち」
「家族」
「エージェント」
「隙間」
「ルール」
「ヤーシャの永遠」
「私は待っている」

ロシアのホラー作家の初短編集。


全体的に、異臭を感じる。
それも、世界全体が化学的に腐敗したような世界や、腐乱死体の激烈な悪臭ではなく、体臭や傷んだゴミのような、記憶にある悪臭。
ペレーヴィンの作品*1を読んだときに感じた「型遅れの機械」に通じる疲弊感。
それだけに、嫌悪感は強い。


現代ロシア文学だと思って、スルーしてるジャンル読みはいるんじゃないかなぁ。
まぁ、『青い脂』*2とか『図書館大戦争*3とか、ガイブン棚でもホラー/SFっぽい作品は多いけどw


最近訳される、同種の短編集と同じく、もやもやっとする奇妙な味/境界線上の話が多いけど、表題作と「生者たち」は純然たるSFホラーで、この二作で本書の半分を占めていて長め。
個人的お気に入りも、この二作。


生きたまま蟻に侵食されていく少年を描いた「むずかしい年ごろ」は幾つもの(生理的)嫌悪感がレイヤーになっていて、それが物語の展開と文体の変化に密接にリンクしていて、ページをめくるごとにそのレイヤーが重なっていき、その重みで潰れそうになる。
結末が近づき、ひとまず物語から開放されると思いきや、また一枚レイヤーが重ねられ……
一方で、読者(人間)にとって嫌悪感を催す行為は、蟻たちにとっては全て生存に関わる理詰めの行為で、その超えられない溝を、異種間SFとも読むことができる。


「生者たち」は、もっとよりSF的。
革命と呼ばれる大虐殺によって人口が激減し、空っぽになったモスクワ。彼女は、死んだ夫のコピーを作ることにするが…
完全な記憶も保持したレプリカントの天国は、実は地獄なのでは?
これ、実はそもそも、人口のほとんどがレプリカント化していた世界なのでは? と思ってしまう。


その他は「ルール」「私は待っている」あたりが気に入った。