MEMORY OF WATER

水の継承者 ノリア

水の継承者 ノリア

『水の継承者 ノリア』エンミ・イタランタ〈西村書店

スカンジナビア連合のはるか北――。ニューキアン軍の占領下にある村で、ノリアは父のような“茶人” になる修行を重ねていた。茶人はある使命を担っていた。人知れず残された泉の在り処を、秘密裏に守りつづけなければならないのだ。だが、資源や技術が失われた世界で、貴重な水を隠すことは犯罪だった。違法に水を得た者には処罰が与えられる。次第に追い詰められていくノリア。自らの義務と、手が届くかもしれない自由との間で、命を賭けた決断のときが訪れる。静かな緊迫感、流れ続ける水への想い。著者渾身のデビュー作!

フィリップ・K・ディック賞、アーサー・C・クラーク賞、ノミネート作品。


両極の氷が溶け、内陸部まで都市は水没。
終戦争により大地は汚染され、飲料水は慢性的に不足。
テクノロジーも歴史も失われた未来の茶人親子の物語。


YAで、ページ数も比較的薄めなんだけど、緊張感が半端なくて、休み休みで読了。


水がテーマになっているけど、轟々と流れるわけでもなく、ヒビ割れた湖底が出てくるわけでもなく、一滴づつ溜まる洞窟の泉、というイメージ。音はその水面に落ちる雫だけ。
全体的にその静謐さと緊張がみなぎっている。


空はいつもどんより曇っている(イメージ)、文明は、CDの使い方もわからないほど後退し、木も金属も資源は枯渇。
自然豊かな北欧が、泥にまみれたゴミ捨て場のそこのような様相。


『神の水』*1の主人公は敏腕エージェントだったから、物語を動かすことができるけど、こちらは単なる十代の少女。
彼女を主人公たらしめているアドバンテージは、誰も知らないの泉。しかし、それは世界を変革できるようなたぐいのものではなく、むしろ、自分の首を絞めかねない。
将来への不安、夢、取り巻く社会、親友との秘密、とヤングアダルト的な悩みが描かれているのだけれど、作品に漂う緊迫感が彼女を身動きできなくしており、乗り越えなければならない障害ではなく、完全に未来を遮る壁にしか見えない。
限られた中、彼女が下す決断は?


ここで言う茶人は、どう見ても日本の茶道で、水を扱った芸術、ということで取り上げているんだと思うんだけど(泉を守る使命の出自は不明)、しかも、この世界では、茶人はマイナーな仕事ではなく、結構認知されてるっぽい。
なんでまた、フィンランドの作家が茶道を選んだのか、あとがきに全く書いてないのはマイナス。