THE PRE-PERSONS and Other Stories

『人間以前』フィリップ・K・ディック〈ハヤカワSF1981〉

人間と認められるのは12歳以上、12歳未満の子供は人間と認められず、狩り立てられてしまう……衝撃のディストピアを描いた表題作を、新訳で収録。長篇『ユービック』と同一設定の中篇「宇宙の死者」、ディック短篇の代表作として知られる現実崩壊SF「地図にない町」(新訳)、侵略SF「父さんもどき」、書籍初収録作「不法侵入者」、晩年の異色作「シビュラの目」ほか、幻想系/子供テーマSF全12篇を収録する傑作選


収録作品
「地図にない街」
「妖精の王」
「この卑しい地上に」
「欠陥ビーバー」
「不法侵入者」
「宇宙の死者」
「父さんもどき」
「新世代」
「ナニー」
「フォスター、お前はもう死んでるぞ」
「人間以前」
「シビュラの目」

連続刊行された灰色表紙のディック短篇集も、これにてひとまず幕。


政府(=大企業)、精神科医、妻、が嫌いということがもれなくついてきますw


ディックに慣れたのか、今まであまり気づかなかったんだけど、オープンエンドの短篇が多いのね。
不安、不穏という漠然としたものに確固たる形(宇宙人とかロボットとか)を与え、SFとして仕立てたのがディックの作品。
短篇という限られた作品世界の中で、主人公たちは、その原因を解決(解消)し、一種のカタルシスを得るものの、彼らを取り囲むその周りの世界そのものは変わってないんだよね。
オープンエンドという突き放された構成によって、読者はキャラクターとその不安感を共有することになる。


たとえば、「父さんもどき」とか、敵は倒せたけど、あの一家はお父さんはいなくなっちゃったわけで、これからどうするの?
「ナニー」は作品が終わっても、イタチごっこは永遠に続くことが明らか。
「人間以前」(前の題の方がいいよね)だって、主人公は難を逃れても、根本的な問題は解決しないし。


お気に入りは、「地図にない街」「宇宙の死者」「父さんもどき」「フォスター、お前はもう死んでるぞ」「人間以前」あたり。