怪奇文学大山脈〈2〉 西洋近代名作選【20世紀革新篇】

『怪奇文学大山脈〈2〉 西洋近代名作選 20世紀革新篇』荒俣宏・編〈東京創元社

西洋怪奇小説の山脈は、無尽蔵の宝の山である――豊饒なる鉱脈に眠る傑作群の紹介と翻訳に尽力した、21世紀を代表する碩学荒俣宏。その幻想怪奇にまつわる膨大な知識の集大成ともいうべき巨大アンソロジーをお届けする。飽くなき探求の果てに見出された、稀なる名作を全三巻に集成した。第二巻では、怪奇小説黄金期を代表する名手――H・R・ウエイクフィールド、J・D・ベリズフォードらの知られざる傑作ほか、異様な迫力に満ちた海洋怪談の力篇「甲板の男」(F・マリオン・クロフォード)、墓碑銘を捜す不気味な男と老いた堂守のやり取りを憂愁に満ちた筆致で描く「遅参の客」(ウォルター・デ・ラ・メア)などの18篇に、編者による詳細なまえがき・作品解説を付す。本邦初訳作多数。


収録作品
「未亡人と物乞い」……ロバート・ヒチェンズ
「甲板の男」……F・マリオン・クロフォード
「鼻面」……E・L・ホワイト
「紫色の死」……グスタフ・マイリンク
「白の乙女」……H・H・エーヴェルス
「私の民事死について」……マッシモ・ボンテンペッリ
「ストリックランドの息子の生涯」……J・D・ベリズフォード
「シルヴァ・サアカス」……A・E・コッパード
「島」……L・P・ハートリー
「紙片」……アーサー・マッケン
「遅参の客」……ウォルター・デ・ラ・メア
「ふたつのたあいない話」……オリバー・オニオンズ
「アンカーダイン家の信徒席」……W・F・ハーヴェイ
「ブレナー提督の息子」……ジョン・メトカーフ
「海辺の恐怖── 一瞬の経験」……ヒュー・ウォルポール
「釣りの話」……H・R・ウエイクフィールド
「不死鳥」……シルヴィア・タウンゼンド・ウォーナー
「近頃蒐めたゴースト・ストーリー」……ベネット・サーフ

怪奇小説概史として、1巻*1の解説は篦棒に面白かったんだけど、「怪奇アンソロジー」としては、今回の収録作のほうが楽しめた。
粒ぞろいというか、もうハズレなしと言って過言ではないかと。
前巻の収録作が、散文的だったり、昔話的な語り口だったのに対して、本書の収録作は完全に短編小説の構成になっていて、今読んでも全く古臭さはない。


お気に入りは、
「甲板の男」
見分けがつかないほど、そっくりな兄弟の船乗り。
航海中、片方が事故で亡くなるが、その後も船内には彼の気配が。
数年後、彼が幼なじみと結婚するという知らせが来るが……
海洋怪談かと思いきや、話はそれでとどまらず、サイコホラー的片鱗も見せ、ラストは正統派幽霊譚らしいシーンで終わるけど、それがかなりぞっとする。


「鼻面」
謎の大富豪の屋敷からダイアモンドを盗もうと計画する三人組。
その屋敷には異様な絵画が飾られており……
富豪の正体は不明ながら、非常にグロテスクな背後が感じられて、素晴らしい。


「紫色の死」
チベット奥地の呪術師の言葉を聞いた探検家が、紫色の円錐と化して死んでしまった。
その報が新聞に載り……
この手の話で、地球滅亡に向かう作品て珍しくない?
スケールのデカイ『リング』みたい。


「私の民事死について」
主人公になりきり、迫真の演技を見せる俳優。
事実、映画は成功するが、それを観ると、キャラクターの状態がフラッシュバックしてしまい……


「ストリックランドの息子の生涯」
息子の輝かしい未来が知りたく、様々な占い師に見てもらうが納得がいかない。
ついには自分で水晶球を購入するが、そこには地獄としか呼びようがない荒野が映り……


「ブレナー提督の息子」
海軍時代の提督の息子が突然一人でやってくる。
その少年はわがままな上、どこか異様なものが感じられ……


「海辺の恐怖── 一瞬の経験」
避暑地で、なぜか完全な邪悪と感じる老人と出会った少女。
彼を家までつけていくと……
なんだかわからないけど、幼年期の恐怖の一瞬ってあるよね?
やっぱ、ヒュー・ウォルポールは短篇集読むかぁ。


「近頃蒐めたゴースト・ストーリー」
作者の集めた実話怪談の紹介。
ここに、『世にも不思議な物語』で読んだのと同じ話が!
こちらはさらに十数年前。自動車が普通になったと同時にできた話なんだろうなぁ。
消えたヒッチハイカー系の都市伝説は聖書レベルまで遡るらしいし。