REMAINDER

もう一度 (新潮クレスト・ブックス)

もう一度 (新潮クレスト・ブックス)

昏睡状態から目覚めた「僕」は、自分が事故で記憶の大半を失ったことを知る。「事故について何も語らないこと」を条件に巨額の示談金を得た彼は、広大を土地を買い上げ、大勢の役者を雇い、執拗に練習を繰り返して、おぼろげな過去を忠実に再現しようと試みる――。滑稽にして不可解、それでいて切ない。各国で賞賛を浴びた異色の話題作。

『ユニヴァーサル野球協会』*1を現実に作っちゃうような話。


何かの事故に巻き込まれ、記憶が飛び飛びになってしまった主人公、と聞くと、物語の推進力は事故の真相は? 記憶は戻るのか? というのが定番だし、まぁサスペンス展開だよね。
しかし、この作品は予想されるゴールとは見当外れの場所をひたすら巻き戻してるというか、DJのようにスクラッチを繰り返しているというか、そんな感じw


まず最初は、主人公のいつかどこかの記憶として蘇ったアパートの復元。しかも、それは建物や調度の復元だけでなく、そこで暮らす人々も役者を雇って再現を目指す。
何度も練習し、主人公の記憶通りの行動や言葉を発するようにする。
事故以降、自分が作り物めいていると感じる主人公は、記憶の再演の中にリアルを求めようとする。
このアパートの再現は、実物大のドールハウスのような感じで、彼の想念と読者の理解の間にすり合わせられる余地があると思うんだけど、それ以降は再演のための再演になり、一体どこまで行ってしまうのか不安になってくる。
それに連れて、主人公の腹心になる、スーパー事務屋のナズもまた彼の狂気に飲み込まれ、再演マシーンの一部と化していく。


いくらリアルな再演をしたところで、それは現実にはならず、現実は再演のための材料、と主客逆転していく主人公の狂った設計図を読まされているようで、後半はかなり恐怖に近いものを感じてしまった。