NOT TO DISTURB

邪魔をしないで (1981年) (Hayakawa novels)

邪魔をしないで (1981年) (Hayakawa novels)

暗いあらしの夜、スイスの湖畔に建つ宏壮な男爵の館――そこでは、執事のリスターを中心に、大勢の使用人たち、屋根裏の狂人と付添いの看護婦、バイクで乗りつけてくる牧師、門番夫婦、女マッサージ師と女装の男、大公殿下を名乗る隣人などが、書斎にとじこもったきり誰ひとり寄せつけようとしない主人たちのことを噂しあっている。退廃しきった生活を送るクロップシュトック男爵夫妻と、その共通の愛人である秘書の青年パセラット。彼ら三人は、とざされた扉の向こうで何をしているのか!? そしてそれを見守る使用人たちは、それぞれの思惑を胸に秘め《予定された惨劇》をいまかいまかと待ちうけていた……。執事のリスターをはじめとして、ひとくせもふたくせもある登場人物たち。彼らは主人の命令――「邪魔をするな」――を文字どおり忠実に実行すると見せながら、そのじつそれを楯にとって、外部からさまざまな邪魔がはいろうとするのを排除し、目論見どおり主人たちに惨劇を演じさせる。このきわめてゴシック的な状況を、非常に簡潔な、極度に説明や描写を切りつめた文体で描く、現代イギリス文壇を代表する女流作家スパーク一流のブラック・コメディ!

巨大な屋敷、嵐の夜、部屋に閉じこもる主人たち、何かを待つ使用人たち……と一見、よくあるゴシックサスペンスの体を取っているんだけど、彼らの言動は甚だ奇妙。


結末を承知して、そこに至る展開は『運転席』*1同様なんだけど、こちらはよりメタ感が強い。
『運転席』の主人公は思い込みが激しすぎる女性と解釈できなくもないのに対して、こちらのキャラクターたちは明らかに役柄を演じている。
我々読者は、そのお芝居を見ているわけではなく、その楽屋でスタンバイしている役者たちの様子を見ているような気分。しかも、彼らはそれを承知しているようなレイヤー感。
起きることを知っているのにそれは止められず、むしろ殺人は行われ、物語を完成させなければならない。
これは『キャビン』*2に近く、キャラクターたちは演者であるとともに、惨劇を待つ観客でもある。


この物語が終われば、また別のゴシックサスペンスを始めるのかもしれない。