LOS NOMBRES DEL AIRE

空気の名前 (エクス・リブリス)

空気の名前 (エクス・リブリス)

若い娘ファトマは、海辺の家の若から水平線をぼんやり眺めてばかりいる。祖母アイシャはタロットカードを使い、孫娘の変化の理由が、彼女のなかに生まれた〈欲望〉であることを知る。ファトマを変えたのは、ハンマーム(公衆浴場)でのカディヤとの出会いだった。ファトマの眼差しは、モガドールの人々の闇に波紋を呼ぶ。噂が噂を呼び、各々が己の欲望や不安を投影しながらファトマの謎めいた眼差しの意味を解釈し、彼女の周囲にさまざまな思いが交錯する。魚市場の競り人アムフルスは、彼女に欲情を抱きながらカディヤと夜を過ごし、漁師ムハンマドは、拒まれてもファトマを妻にしようと思い、策をめぐらす。ファトマはカディヤを探し求めるが、ついに再会することはない――。稀代の語り部による、驚きと悦びに満ちためくるめく物語。

イスラム圏の港町で、ハンマームが重要な舞台になっていることもあるのか、文章からは非常に濃密な湿度と漂う香料が感じられる。
それも、汗の玉が浮かぶ肌のよう。


原著は散文詩のように書かれているらしく、また、物語も筋道があるようなないような、ラストもあるようなないような……
だからこそ、謎めいたファトマの視線が案内役となって、より街の情景が浮かび上がってくる。また、人々の噂で息づく街は、呼吸する肉体のようでも、女体をなぞっているかのようでもあり、エロティックなイメージが喚起される。


「物語」の物語でもあって、それらは語られることのよっても、語られないことによっても、新たな物語が生み出されていく。