Thinkers

ティンカーズ (エクス・リブリス)

ティンカーズ (エクス・リブリス)

退職後、時計修理を営んでききた80歳のジョージ・ワシントン・クロスビーは、死の床で、自宅がばらばらに崩壊する白昼夢を見る。記憶や思い出の数々が脳裏に浮かんでは消えていくなか、鮮明に思い出したのは、11歳のとき、貧しい行商人だった父ハワードが、クリスマスイブの夕食の準備のさなかに癲癇の発作におそわれた光景だった。ジョージは父が頭を床に打ちつけないようおさえつけていた指を強く噛まれ、それを見た妻キャスリーンは、夫を施設に入れることをひそかに決意する。その計画を知ったハワードは絶望し、いつものように行商に出たまま、二度と戻ることはなかった。病を苦にし、家を出た父の意識の流れ、牧師だった祖父のエピソードなと、現代を含むさまざまな時間軸の物語が、18世紀の時計修理手引書からの抜粋や手書きの文章とともに織り上げられていく。死にゆくジョージが最後に思い出した光景とは……

過去・現在・未来を同時に回想するDr.マンハッタン*1を思い出した。


時計職人の最期までの数日を描いていると同時に、時間そのものがテーマ。
神同様のDr.マンハッタンにとっては、すべてが並列だけど、人間はそうは行かない。しかし、一瞬を永遠に引き伸ばし、永遠を一瞬に圧縮できる。
その相対的な時間の流れに対する認識が、死の床の主人公、その父や祖父、覚え書きなどのエピソードによって、描写されていく。
工作に夢中になってあっという間に過ぎる1日。過去と現在が朦朧と化する老境。世界の消滅を一瞬で知覚する末期。
そして、死の瞬間に思い浮かぶのが、肩の荷が下りたある瞬間。
それはある種の赦し。


そして。時間と同じように神の視線が注がれるのが、自然。
非常に瑞々しい描写で、特にハワードの行商の途中に映る景色は素晴らしい。その自然の中に暮らす幾人かの奇人たちが、時間を超越しているのも印象的。