河岸

河・岸 (エクス・リブリス)

河・岸 (エクス・リブリス)

EX LIBRIS初の中国作品。

江南の町、油坊鎮には革命の犠牲になった女性英雄、蠟少香の記念碑が建立され、参拝者が絶えない。庫文軒は魚の形の蒙古斑が尻にあることを証拠に、蠟少香の息子だと言われてきた。この血筋の良さにより、庫文軒は油坊鎮の指導者となり、結婚して息子、東亮をもうける。しかし、やがて文軒はその経歴を疑われ、権力を利用しての派手な女性関係が暴露され、失脚する。夫婦は離婚し、庫父子は陸の世界を追われた。父は艀船の仕事に就き、息子は「空屁」と揶揄され、父子の船上生活が始まる。東亮は、父の不倫の顛末や性交渉の実態を記したノートを入手し、手淫に耽る。そんなとき、少女、慧仙とその母親が油坊鎮に流れ着いた。母親が失踪し、慧仙は庫父子の船で生活を共にすることになる。東亮は慧仙の生活や成長を日記に書き、満たされない恋と性の衝動に苦しむ……。

中国版『手で育てられた少年』*1(笑)


女性関係で破滅した父親の厳しい監視の中、勃起に悩み、しかし、父の不倫の様子を記したノートでオナニーする主人公。何を言ってもやっても物事は悪い方向に進むばかり。不器用故に自分の気持を伝えられず、やはり事態は悪化。運命を好転させる力があるはずもなく、情況に甘んじるという青春デフレスパイラルになんか見覚えがあると思ったら、古谷実の漫画だ。特に、常に川があるということで、『ヒミズ*2に雰囲気が似てる。
鬱屈した青年が、たまたま一緒に暮らすことになった美少女に振り向いてもらえるわけがない。


ゆらゆらした青春が、船の生活とハマってるんだよね。
女性英雄の本当の息子は誰なのか、完全に切り落とされない性器、扱いづらく常に預かり状態の美少女、船上にも陸上にも友人を作れない少年、近代化していく社会に適応できない船の人々、みんなが宙ぶらりんで、属性があちら側でもこちら側でもない船がそれらを象徴している。


マジック・リアリズムは本来読み手が、そこにマジカルなものを感じる結果であって、書き手に幻惑の意識はあまりないと思うんだよね。
ところが、中国のマジック・リアリズムや伝奇的な要素になると、どんなに書き手がファンタジックなものを狙っていようとも、読者は「中国ならありそう……」とリアリズムの方に重きを感じちゃうのが、個人的な感想。
海の上のピアニスト*3がファンタジーであるのと好対照で、本作の船上生活を当然のように受け取ってしまう。
だけど、それこそが、作者が意図しているかどうか分からないけど、術中にはまってるわけで、「大陸のどこかに実在していそう」という異質な考えを刷り込まれている。読者もいつの間にか宙ぶらりんな状態に追い込まれてしまう。


中国小説は臭気を感じることが多いんだけど、これは非近代化的な生活にもかかわらず、それがなかった。『黄泥街』*4とか、そりゃもう耐えがたかったんだけど、不潔感がないとそれはそれで寂しいなぁ(笑)