Pump Six and other stories
- 作者: パオロ・バチガルピ,鈴木康士,中原尚哉,金子浩
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2012/02/09
- メディア: 新書
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化学物質の摂取過剰のため、出生率の低下と痴呆化が進行したニューヨーク。市の下水ポンプ施設の職員である主人公の視点から、あり得べき近未来社会を措いたローカス賞受賞の表題作。石油資源が枯渇し、穀物と筋肉がエネルギー源となっているアメリカを舞台に、『ねじまき少女』と同設定で描くスタージョン記念賞受賞作「カロリーマン」。身体を楽器のフルートのように改変された二人の少女を描く「フルーテッド・ガールズ」ほか、本邦初訳5篇を含む全10篇を収録。ヒューゴー賞/ネビュラ賞/ローカス受賞の『ねじまき少女』で一躍SF界の寵児となった著者の第一短篇集。
収録作品
・「ポケットのなかの法(ダルマ)」Pocketful of Dharma
・「フルーテッド・ガールズ」The Fluted Girl
・「砂と灰の人々」The People of Sand and Slag
・「パショ」Pasho
・「カロリーマン」The Calorie Man
・「タマリスク・ハンター」The Tamarisk Hunter
・「ポップ隊」Pop Squad
・「イエローカードマン」Yellow Card Man
・「やわらかく」Softer
・「第六ポンプ」Pump Six
さすがに半分既読だなぁ。とは言え、かなり前なんで半分再読。
既訳短篇では「ギャンブラー」*1以外は全て収録。ついでに入れちゃえばいいのに、と思ったものの、ちょっと他の作品とカラーが違うんだよね。
エネルギー、食料、人口、水、化学物質……バチカルピの描くディストピアは、現在と地続きに存在している。
前世紀(SFっぽい!)に流行った世紀末ジャンルも、水や石油が枯渇しているのがお約束だったけど、それは舞台設定の色付けに過ぎないものが多かったけど、バチカルピ作品では、その破滅は物語の中枢をなしている。事態を好転させるヒーローの登場など期待できるはずもなく、彼らは現状に耐え、生活していくしかない。
その姿は、我々の状況と全く同じなんだよね。夢も希望もないんだけど、それでも生きていかなくてはならない。
初訳作品は、
・「ポケットのなかの法(ダルマ)」
成都のストリートキッズ、ワンはある日、チベット人からデータキューブを運ぶ仕事を頼まれる。
しかし、渡す相手は現れず、見知らぬ外国人がそれを狙っていた。
中身ははたして?
バチカルピの中では意外に少ない直球のサイバーパンク。
アジアンな舞台設計はさすが。
・「パショ」
砂漠の村から都市に留学し、学問を修めて帰郷した青年。
しかし、村では彼のことは受け入れられず……
・「タマリスク・ハンター」
深刻な水不足に悩まされるアメリカ中西部。
長い根を張って、水を吸ってしまうタマリスクの伐採を生業にする男。
・「ポップ隊」
不老不死となった世界。
そこでは出産は違法であり、発見された女と子供はポップ隊によって処分されていた。
非常にグロテスクだけど、老いを醜く感じてしまう世界は現在の延長線上にあるよなぁ。
・「やわらかく」
はずみで妻を殺してしまった夫。
隣人に真相を話そうとするが……
非SF作品。
全体でお気に入りは、「ポケットのなかの法(ダルマ)」「フルーテッド・ガールズ」「カロリーマン」「タマリスク・ハンター」「イエローカードマン」「第六ポンプ」。
まぁ、ぶっちゃけ、みんないいですよ。21世紀のサイバーパンクのテストケースとして必読。
「フルーテッド・ガールズ」はエロくてやはり好き。
「カロリーマン」「イエローカードマン」は『ねじまき少女』*2後に読むと、さらに飲み込みやすくなってたので、再読してよかった。
「タマリスク・ハンター」「第六ポンプ」は天災とかした人災で、絶望的な気分になるよなぁ。