MEMORY WALL

メモリー・ウォール (新潮クレスト・ブックス)

メモリー・ウォール (新潮クレスト・ブックス)

老女の部屋の壁に並ぶ、無数のカートリッジ。その一つ一つに、彼女の大切を記憶が封じ込められていた――。記憶を自由に保存・再生できる装置を手に入れた認知症の老女を描いた表題作のほか、ダムに沈む中国の村の人々、赴任先の朝鮮半島で傷ついた鶴に出会う米兵、ナチス政権下の孤児院からアメリカに逃れた少女など、異なる場所や時代に生きる人々と、彼らを世界に繋ぎとめる「記憶」をめぐる6つの物語。英米で絶賛される若手作家による、静謐で雄大を最新短篇集。0・ヘンリー賞受賞作「一一三号村」およびブッシュカート賞受賞作「ネムナス川」を収録。


 収録作品
・「メモリー・ウォール」Memory Wall
・「生殖せよ、発生せよ」Procreate, Generate
・「非武装地帯」The Demilitarized Zone
・「一一三号村」Village 113
・「ネムナス川」The River Nemunas
・「来世」Afterworld

絶賛の声を多く聞くものの、残念ながら、個人的にはあまりはまらなかったなぁ……
非常によく書かれていて、圧倒的な深みがあるのはわかるんだけど。


質・量ともに、「メモリー・ウォール」「来世」が双璧か。また、この二作は認知症を扱っていて、対にもなっている。
彼女たちは、記憶が失われていくと同時に、こことは違う世界にアクセスしていく。そこは、量子論的並行世界のように過去も現在も同等に存在する。しかも、観測者として、それを一度に概観できる。その象徴が無数のカートリッジが掛けられた壁であり、見知らぬ光景を目の当たりにする発作であったりする。
しかし、二つの世界を同時に見ることはできない。
一つの記憶を見ることによって、彼女たちが存在される世界は固定され、日々朦朧としていく中、幸せだった世界へとアクセスして戻らないのは、慈悲なのか……
ただ、認知症を扱ったものでは『皺』*1の方に票をあげるかなぁ。


他の作品では、絶滅したチョウザメを釣ろうとする「ネムナス川」が好き。