THE BRIEF AND FRIGHTENING REIGN OF PHIL

短くて恐ろしいフィルの時代

短くて恐ろしいフィルの時代

日本では主に短編*1しか訳されていなかったソーンダースの第四長編。

小さな小さな〈内ホーナ一国〉とそれを取り囲む〈外ホーナ一国〉。国境を巡り次第にエスカレートする迫害がいつしか国家の転覆につながって……? 「天才賞」として名高いマッカーサー賞受賞の鬼才ソーンダーズが放つ、前代未聞の〈ジェノサイドにまつわるおとぎ話〉。

登場人物は人間ではなく、生き物にすら見えない、おもちゃかガラクタの塊にしか見えない何か。
しかし、それ故にカリカチュアライズは著しく強まり、彼らが繰り広げる虐殺や世論操作の様子は非常にグロテスク。
ミニマムな世界で、幾何学図形のような姿をしたキャラクターたちは、人間の蛮行の結晶モデルのようにも見える。


「個」があるかぎり、どんな世界でも差別はなくならないんだよね。差異をなくすことはできないから、それを受け入れ、それに負けない世界を作っていくしかない。
この作品を読んで思い出したのが、以前ラジオで伊集院光ピエール瀧が話していた、いじめの話。クラス全員が敵だとしても、その外側は全員味方かもしれないし、その外側はまた敵かもしれない、その繰り返しが人生、というもの。
このホーナ一国でもそれは文字通り繰り返され、最大のドラスティックな介入があってもおそらく歴史も繰り返す。自分たちで解決を見出さなくちゃいけないんだよね。


あっという間に読み終わるけど、色々考えちゃう作品。