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気高き豹と炎の天使 (扶桑社ロマンス)

気高き豹と炎の天使 (扶桑社ロマンス)

〈サイ=チェンジリング〉シリーズ第4弾

パラノーマル・ロマンス〈サイ=チェンジリング〉シリーズ第4弾! 豹チェンジリング〈ダークリバー〉の戦士クレイを訪ねて、児童連続殺人の調査を依頼しにヒューマンの女性タリンが現れる。死んだと開かされていた幼なじみとの久方ぶりの再会に動揺するクレイ。幼い日に凄惨な過去を共有し深いきずなで結ばれたふたりは、熱く燃える感情をぶつけあうなかで、今も強く相手に惹かれる自らの想いに気づく。しかしタリンには誰にも話せない秘密があった……。巻末には特別短篇を収録!

これまで、まるで存在意義が感じられなかった第三の種族ヒューマン。これなら、二つの種族だけでいいんじゃないの? と思っていたら、3巻*1でヒューマンの活動家が暗躍し始め、そして今回はチェンジリング×ヒューマンのカップリング。読者の期待を先回りしたシリーズ構成はさすが。


このシリーズ、必ず主人公二人に欠落があるんだよね。その欠けたものをお互いが補い合う、というのがロマンス的推進力になっていると同時に、サイもチェンジリングも、パラノーマル的に他者との結びつきを必要としており、その二つのすり合わせが巧みで、パラノーマル・ロマンスの意義をはっきりと示している。
そういう意味では、今回の主人公、クレイとタリンの欠落はわかりやすく、それが二人の過去の因縁にもつながっているため、物語を引っ張る力にもなっている。
また、これまでは、サイ×チェンジリングという相容れない種族のカップリングだったため、それが成立するまでの道のりが険しかったのに対して、今回の二人は幼なじみ。
しかし、だからといって、いきなりいたしたりはしませんよ(笑)


作者の好みなのか、向こうでも流行りなのかは知らないけど、キャラがだいたいツンデレ属性なんだよね。
今回のヒロイン、タリンは過去の血なまぐさい因縁に加えて、自傷行為のように無数の男と何も感じないセックスを繰り返してきたことに負い目を感じており、唯一の親友とも言えたクレイとの一線を越えられない。一方の彼も、彼女を求めながら、タリンは自分から逃げたと思っており、それを繰り返したくないと思っている。
キャラだけでなく、二人の関係性そのものが欠落から始まっており、このツンの理由をサスペンスフルに積み上げ、その溝を埋めていく過程がロマンス的見所。


一方、ストーリーの方も相変わらず面白い。
いつものように惨殺事件を追うのが縦糸なんだけど、それが世界の秘密と社会の激変をもたらせかねない問題へとつながっていく。悪役たるサイの上層部も一枚岩でなく、いくつもの思惑が錯綜し、さらに謎の革命家ゴーストなどが、横糸として張り巡らされている。
また、過去の主人公たちは脇に控えているんだけど、彼女たちも大きなタペストリーの一部として組み込まれ、更に世界観の奥行きを深めていく。
SF的には日韓戦争が起きたらしいんだけど、どういう結末なのかが気になる。
新たにネズミのチェンジリングが登場し、なかなかの活躍。しかし、台詞の中でしか出て来なかった蛇のチェンジリングが印象的で、是非登場して欲しいなぁ。


ラストはあまりにロマンス的予定調和で、個人的には残念なだけど、それもこの世界ならではのパラノーマル的解決で上手いんだよなぁ。


SFマガジンはそろそろパラロマ特集をやってくれてもいいと思う(笑)