THE CITY & THE CITY

都市と都市 (ハヤカワ文庫SF)

都市と都市 (ハヤカワ文庫SF)

ふたつの都市国家〈ベジェル〉と〈ウル・コーマ〉は、欧州において地理的にほぼ同じ位置を占めるモザイク状に組み合わさった特殊な領土を有していた。ベジェル警察のティアドール・ボルル警部補は、二国間で起こった不可解な殺人事件を追ううちに、封印された歴史に足を踏み入れていく……。ディック-カフカ異世界を構築し、ヒューゴー賞世界幻想文学大賞をはじめ、SF/ファンタジイ主要各賞を独占した驚愕の小説

殺人事件を追う刑事。しかし、彼の前には二都市間のシステムが立ちはだかる……と書くと、よくあるミステリなんだけど、この都市が一筋縄ではいかず、それこそが主人公。


同じ場所でモザイク状に混ざり合った領土を有する〈ベジェル〉と〈ウル・コーマ〉。
国民は互いの国を見ないように教育されていて、それを違反すると、超越的組織〈ブリーチ〉に拘束されてしまう。極論すると、ベジェル人がウル・コーマの車に撥ねられたら違法なのだ。
また、明確に分かれている地域もあれば、隣同士で異国という場所もある。無論そこに行くのは違法なので、都市の中央にあるホールで国境チェックを受ければ、訪れることができる。
聞いただけど、ありそうもないんだけど、『アンランダン』*1や『ペルディード・ストリート・ステーション』*2などで、魅力的な街を描いてきたミエヴィルの筆力で、非常に強い実体を持っている。しかも、アンランダンやニュー・クロブゾンがファンタジーであるのに対して、ベジェルとウル・コーマは東欧のどこかという舞台にもかかわらず。
自分の経験で、クロアチアのスプリットからドブロヴニクに向かう道の途中で、一部だけボスニア・ヘルツェゴヴィナが突出している場所を通ったことがあるだけに、なんかヨーロッパのどこかにありそうなんだよね。旧共産圏(らしい)都市国家という巧みな設定もそれを補強している。
街歩き好きとしては、是非訪れてみたい。入国のための試験に落ちそうだけど。


ベジェル用語が多用され、なかなか世界が「見え」ず、入るまで結構時間がかかる。しかし、そこがいざ「見え」てくれば、その手は止まらなくなる。
そんな街ならではの犯罪あり、それがなければ成り立たないという意味で、異世界ミステリとしても傑作。
隣り合っているけど互いが見えない〈ベジェル〉と〈ウル・コーマ〉、両者を見ることができるけど越境がなければ動けない〈ブリーチ〉、この三者のシステムを使って、ボルルはどうやって犯罪を追っていくのかが、物語としての見所。


ラストは『ダークマン*3を想起させ、ダークヒーロー的寂寥感を与えてくれる。


21世紀の邦訳SFにおいて、イーガン、チャンが双璧なら、そこに継ぐ新星がバチカルピ。そして、昔かちょろちょろと訳されてはいたけど、急に要注目になったミエヴィルもそこに並ぶなぁ。