DE NIRO’S GAME

デニーロ・ゲーム (エクス・リブリス)

デニーロ・ゲーム (エクス・リブリス)

内戦下のベイルートで、キリスト教民兵組織が支配する地区に暮らすアルメニア系の少年バッサーム。幼なじみのジョルジュは「デニーロ」というあだ名で呼ばれている。二人はジョルジュが働くカジノから金をくすね、ガソリンを盗んではバイクを乗り回す日々を送る。ジョルジュはカジノを運営する民兵組織に引き抜かれ、イスラエルで訓練を受けるかたわら、密造酒や麻薬の取引をバッサームに持ちかけ、次第に二人は疎遠になっていく。ある日、バッサームはある殺人事件の嫌疑をかけられ、民兵組織に連行され拷問を受けるが、ジョルジュの叔母の計らいによって解放される。彼はレバノン国外に逃れる決心を固め、その資金を手に入れるため、カジノの売上を強奪する。脱出の直前、キリスト教勢力の最高司令官が暗殺され、それに関与した容疑をかけられたバッサームを、ジョルジュが連行しにやってくる……。

二人の幼なじみが追うものと追われるものに別れる青春モノは珍しくない。
しかし、この作品は、舞台が内戦下のベイルート、幼なじみの二人は民兵とチンピラという、単純な正義と悪の構図が付けづらく、混沌とした世界を描いている。
瑞々しく、奇をてらわない筆致は青春ものらしいんだけど、そこに漂う空気には砂ぼこりに混じって火薬が漂い、閉塞感が場を支配している。民兵の突然連行されて拷問を受け、家には砲弾が打ち込まれて家族が死ぬという日常。読者が異常と感じる状況でも、彼らにとっては日常であり、しかも彼ら自身、それが異常だということは承知してるんだよね。野犬と化したチワワが人を襲うなんて、普通の小説だったら笑いどころだけど、ここではその異常な日常として描かれる。犬を飼っていた富裕層は残っていないという事実。


また、題名のもとになっている『ディア・ハンター*1と『異邦人』*2からの引用が印象的。そこに描かれているものが、フィクションでないという悲劇。ロシアンルーレットの事故が簡単に言い訳が通る世界と、その世界から逃げ出す方法としてそのゲームを採るしかない残酷さ。そして、逃れた先では、彼はまさにアラブの異邦人。


『紙の民』*3に続いて、藤井光氏の訳。読みやすいです。