THE ENQUIRIES OF DOCTOR ESZTERAHZY

エステルハージ博士の事件簿』アヴラム・デイヴィッドスン河出書房新社 ストレンジ・フィクション〉
ストレンジ・フィクション第一弾!

時は19世紀と2世紀の変わり目、舞台はバルカン半島中央部に位置する架空の小国スキタイ=パンノニア=トランスバルカニア三重帝国。法学、医学、哲学、文学、理学、その他もろもろ博士号を持ち、大都ベラでただひとり私兵を雇う資格を持つ、希代の大博士エングルベルト・エステルハージがさまざまな怪事件を解決する。30年の眠りにつく童女の謎、盗まれた宝冠の行方、老女と暮らす熊の正体、魔を呼ぶ集会、イギリス人の魔術師の野望、川に伝わる美し乙女の伝説、そして不老不死の夢……。怪談、スリラー、探偵小説、幻想譚、喜劇、民話に彩られた、異色事件簿。博覧強記の幻想作家デイヴィッドスンの最高傑作がついに邦訳!

収録作品

  • 「眠れる童女、ポリー・チャームズ」Polly Charms, The Sleeping Woman
  • エルサレムの宝冠 または、告げ口頭」The Crown Jewels of Jerusalem, or, The Tell-Tale Head
  • 「熊と暮らす老女」The Old Woman Who Lived With a Bear
  • 「神聖伏魔殿」The Church of Saint and Pandaemons
  • 「イギリス人魔術師 ジョージー・ペンバートン・スミス卿」Milord Sir Smiht, the English Wizard
  • 「真珠の擬母」The Case of the Mother-in-Law of Pearl
  • 「人類の夢 不老不死」The Ceaseless Stone
  • 「夢幻泡影 その面差しは王に似て」The King’s Shadow Has No Limits



架空のヨーロッパで、怪奇大作戦な、シャーロック・ホームズ、かと思っていたんだけど、それは見事に裏切られた。
そもそも、無数の博士号を持つ、三重帝国随一の頭脳エステルハージがあんまり凄そうに見えないんだよね。事件の対象は不思議な出来事が多いんだけど、わからんものはわからんと謎のままで終わることもしばしば。大博士なのに! 怪奇推理を期待していると、色々と外される。
これは、ストーリーよりもむしろ、スキタイ=パンノニア=トランスバルカニア三重帝国の町をそぞろ歩くことを楽しむ作品。必ず蘊蓄が語られるんだけど、その基礎にある地名や人名がひじょうにデタラメっぽい。にもかかわらず、そこに立脚した街並みはディティール細かく描写され、ひょいと怪しげな路地裏を覗きたくなる存在感を有している。
そんな町だからこそ、逆にエステルハージ博士のインチキ臭さが見事に権威と化し、もっとインチキを欲してしまう。野蛮人の従者や全ての知識を知る司書など、魅力に溢れている。
お気に入りは、「熊と暮らす老女」「イギリス人魔術師 ジョージー・ペンバートン・スミス卿」「夢幻泡影 その面差しは王に似て」あたり。特に、最終作は楽園の崩壊を予言していて物悲しい。