THE IRRESISTIBLE INHERITANCE OF WILBERRFORCE

ウィルバーフォース氏のヴィンテージ・ワイン (エクス・リブリス)

ウィルバーフォース氏のヴィンテージ・ワイン (エクス・リブリス)

『ウィルバーフォース氏のヴィンテージ・ワイン』ポール・トーディ〈白水社EX LIBRIS〉
『イエメンで鮭釣りを』*1の作者の2作目。

〈2006〉:主人公ウィルバーフォースはロンドンのとある高級レストランの前でタクシーから降りる。足元はすでにふらついている。お目当ては貴重な1982年のシャトー・ペトリュス。冴えない身なりにクレジットカードの提示を求められると、現金で支払うと答えて札束を見せる。ワインに関する知識でソムリエを唸らせながら、彼は運ばれてきたペトリュスを□に含む。意識は別世界に誘われ、亡き妻キャサリンが微笑みかける。周囲に広がる驚きとざわめきのなか、あと一本しかないという同じワインを注文し、またも至福の時を味わうが、酩酊状態がすすみ、店から丁重に追い出されてしまう。その後、〈2004〉〈2003〉〈2002〉と年代を遡りながら、彼がなぜワインの世界に足を踏み入れたのか、その顛末が明らかにされていく。もともとコンピューターソフト開発者だったウィルバーフォースは、あるとき仕事帰りに丘の上の広大な屋敷に併設されたワインショップを発見する。そして屋敷の一族の末裔であるオーナーのフランシス・ブラックと知り合うことに。そこから、思いがけないワインの世界に導かれていくのだが………。

ワインに取り憑かれた男の転落を描いた物語。
しかも、その眼力は中島誠之助に説教食らうレベル(笑)
運命の出会いを描いているものの、実は単なる偶然なんだよね。しかし、転落は必然。
時間を遡っていく構成なんだけど、別に真相が明らかにされていく(それを期待する)小説ではないのであまり効果は出ていない上、特に技巧的でもない。
ただ、他のそういう構造の小説なら、主人公が如何にして堕ちていったかを露にしていくものだけど、ここで明るみにされるのは、ウィルバーフォースは元から、何かが欠落した人間だということが面白い。それ故に、ラストの決意と裏腹の結末は悲惨。


「アル中じゃない、ボルドーを愛してるだけなんだ」は名言。
コレクターは積極的に引用していきましょう(笑)