OVER FLAT MOUNTAIN and other stories

平ら山を越えて (奇想コレクション)

平ら山を越えて (奇想コレクション)

『平ら山を越えて』テリー・ビッスン河出書房新社 奇想コレクション
ビッスンの日本オリジナル短編集第2弾。
半分くらい読んでるなぁ、と思ったら、既訳はこれで全部収録?


収録作品
・「平ら山を越えて」Over Flat Mountain
 10万フィート以上に隆起した山脈を超えるトラックドライバー。
 そこに密航した少年との旅。
 ビッスンは突拍子も無い設定でも、根っこに普遍的なノスタルジーというか、共感できるお約束があって、心地いいんだよね。


・「ジョージ」George
 生まれた子供には翼が生えていた。
 医者に切ったほうがいいと言われ、決断するが……
 子供への愛と期待に溢れる作品。



・「ちょっとだけちがう故郷」Almost Home

 トロイは、いつも遊んでいる競技場が墜落した飛行機をカモフラージュしたものだと気づく。
 親友のバグと、背中が曲がった従姉妹のチュトと共にスポーツドリンクを燃料に飛行機を飛ばす!
 世界観も設定もよくわからないんだけど、児童文学っぽく描かれていて、雰囲気がはまっている。
 夢だったのか、それとももう一つの町に行ったのか。
 ラストはしんみり。



・「ザ・ジョー・ショウ」The Joe Show

 ヴィクトリアがCDをかけながら風呂に入っていると、突然歌をとちった。
 何事かと出ると、テレビが勝手につき、トークショーの司会のような男が映っている。
 地球外知性体と大統領が歴史的会談をしている間、回線を保持して欲しいという。
 それには、性的興奮で意識を高めなければいけないとか。
 笑えるなぁ。
 初出は『PLAYBOY』なので、ちとエロ系(笑)



・「スカウトの名誉」Scout’s Honor

 ネアンデルタール人を研究している女性研究者。
 彼女に、過去に遡ってネアンデルタール人と生活を共にしているかのようなメールが届く。
 友人や同僚の冗談かと考えるが……
 滅びゆく運命のネアンデルタール人とメール送信者の運命、
 追放されたネアンデルタール人と孤独な生活を送る主人公の対比。



・「光を見た」I Saw the Light

 月に謎の建造物が発見される。
 調査に向うと、そこにはピラミッドのようなものが……
 これは普通かなぁ。



・「マックたち」Macs

 逮捕された爆弾テロ犯。
 彼は遺族の数だけクローンが作られ、そこに本人を混ぜて配られた。
 リンチする家族もいれば、助けようとする家族もいて……
 何度読んでも傑作だなぁ。
 ひじょうに嫌な話であるとともに、この刑罰に賛成したくなってしまう自分がいる。



・「カールの園芸と造園」Carl's Lawn & Garden

 自然がなくなり、映像や電気仕掛けの植物を買う時代。
 造園技師のカールと助手は、天然芝生の顧客のもとに行くが……



・「謹啓」Greeting

 人口過剰のため、七〇代以上になると、無作為に自殺を強制する書類が届く未来。
 偶然同時期に届いた親友二人は、一緒に最期を迎えようとするが……
 納得しがたい正論が支えるディストピア
 それに対抗する主張もまた陰鬱。 
 高齢化社会を考えるとヘコむ話。