GENESIS

創世の島

創世の島

『創世の島』バーナード・ベケット早川書房
新書サイズ(?)という早川書房では珍しい版型。

時は21世紀末。世界大戦と疫病により人類は死滅した。世界の片隅の島に大富豪プラトンが建設した〈共和国〉だけを残して。彼は海上に高い隔壁を作り、外の世界からこの国を物理的に隔離することで、疫病の脅威から逃れたのだ。同時に彼は、労働者、戦士、技術者、特権階級である哲学者で構成する社会を築き上げる。厳格な階級制度のもと、唯一生き残ったこの島は、人類の新たなる創世をもたらすと思われた。アダム・フォードという兵士が、漂流者の少女を助けるまでは……。そしていま、ひとりの少女がアカデミーの入学試験として、4時間にわたる口頭試問に挑もうとしていた。彼女の名はアナクシマンドロス、通称アナックス。試験のテーマは「アダム・フォード」。無感情な3人の試験官の前で、彼女は〈共和国〉建国の経緯や、その社会構造、歴史、AI(人工知性)の問題をつぎつぎに解き明かしてゆく……。最後の数ページ、驚天動地の結末が全世界で話題を呼んだ、エスター・グレン賞受賞の衝撃作。

最近多いポスト・アポカリプトものなんだけど、他と違って、題名どおりに新秩序が生まれた世界が舞台。主人公の口頭試問という体裁で、必然的にその世界の成り立ちとシステムが語られていくことになる。
アナックスが詳しく歴史を説明してくれるから、彼女が暮らす社会もわかった気になるけど、実はほとんど見えていない。YAということもあって、筆致はひじょうに口当たりがいいんだけど、そこに隠された真実と仕掛けはすこぶる上質。少女の一人称なので、一瞬成長譚と思いきや、世界の崩壊、再生、そして哲学的で、壮大なSF的闘争まで一気に突き進む。結末は途中で見当がつくものの、それでグロテスクな衝撃が減じることはない。
最近のSFではアタリの1冊。


ちょっとネタバレ(?)
新世界人は、哲学者から名前を貰っているんだけど、そういうことだよね?
表紙も仕掛けの一つだよなぁ。