THE PESTHOUSE

隔離小屋

隔離小屋

『隔離小屋』ジム・クレイス白水社

謎の伝染病に冒された『アメリカ』。隔離小屋(ペストハウス)に置き去りにされた瀕死の女、大陸を脱出して海の向こうを目指す大男、二人の愛は冷酷な試練を乗り越えられるのか?

あらすじから受けるファーストインプレッションは『ザ・ロード*1と似ている。でも、実際に読むと結構違う。個人的には『トム・ソーヤ』のような印象。
どうしても比べちゃうけど、『ザ・ロード』はおそらく崩壊からさほど時間が経っていないから、あの親子の苦しみや悲哀が実感できる。しかし、『隔離小屋』では崩壊前の世界はもはや伝説で、とっくに新たな文明が始まっているため、「全くの別世界」が言い過ぎなら、違う時代の冒険譚として読めた。
生活な中世レベルに退行し、かつてのテクノロジーの残骸が散らばり、ヒャッハーな野盗がうろついてはいるんだけど、完全な灰色の世界であり、内容も文体もドライな『ザ・ロード』とは反対に、こちらはある種牧歌的ですらある。その理由が、ひじょうに巧みな風景描写。初めの頃に出てくるバター・ヒルの表現など、ポスト・アポカリプトものらしからぬ豊かさ。ストーリーよりも情景の方が印象的なくらい。また、往きて帰りし物語という構造も、それを手伝っているのかな。
SF的には、人々が求める海の向こう(=ヨーロッパ)の様子が気になる。インダストリアルなのかなぁ。


それにしても、今度公開する『ザ・ウォーカー』といい、崩壊後のアメリカを舞台にしたロードものが流行り?