MR. SEBASTIAN AND THE NEGRO MAGICIAN

ミスター・セバスチャンとサーカスから消えた男の話

ミスター・セバスチャンとサーカスから消えた男の話

『ミスター・セバスチャンとサーカスから消えた男の話』ダニエル・ウォレス〈武田ランダムハウスジャパン
『西瓜王』*1ビッグ・フィッシュ*2の作者の最新作

1954年アメリカ。ある日突然、サーカス団から一人の魔術師が姿を消した。ヘンリー・ウォーカー−−黒人の魔術師だった。謎の失踪について、そしてヘンリーの人生について、様々な語り手たち――団長、奇体の団員、私立探偵−が各々に語りだす。702号室で出会った魔術師のこと、彼と交わした「血の誓い」、「愛のマジック」、殺人、黒人ではないこと……。次第に見えてくる、ヘンリー・ウォーカーという魔術師とは。

現実と幻想の狭間に存在するサーカス芸人やフリークス、現実の裏側を見ている私立探偵たちが語るヘンリー・ウォーカーの生涯。
そこには少しずつ食い違いが。幻想を売り物にしている彼らでさえ、ヘンリーの作り出す幻想を見ていたに過ぎない。けれども、幻想を見ることは決して不幸なことではなく、彼の語りによって自分こそがヘンリーの親友だと思っていた団員たちだが、彼への愛情は本物。ファンタジーが現実となり、そもそもその両者の区別は? という展開は『ビッグ・フィッシュ*3(原作読んでないけど)と同様。しかし、ヘンリーが見せ、自分でも見ていた幻想はあまりに物悲しい。彼自分が見たくないものを追い求めていたように思える。
現実と幻想、生と死、白人と黒人、それら両者を自由に行き来しながら、どちらに属することもできず、その狭間で自分を見失った魔術師の悲劇。
個人的には、トッド・ブラウニングのイメージ。