WORLD WAR Z : An Oral History of the Zombie War

WORLD WAR Z

WORLD WAR Z

WORLD WAR Zマックス・ブルックス文藝春秋

中国奥地で発生した謎の疫病。高熱を発し、死亡した後に甦る死者たち。瞬く間に世界はゾンビで溢れ、文明は崩壊し、人類は絶滅の瀬戸際に立たされる。後に世界ゾンビ大戦と呼ばれることになる戦いから10年。人々は、あの未曾有の危機をどう乗り切ったのか? 兵士、政治家、実業家、主婦、オタク、スパイ……様々な人々のインタビューから、当時を振り返る。

個人的に、ゾンビは純粋にアクションだけだから、映画なり、ゲームなり、ヴィジュアルありきだと思ってる。他のホラーに比べて、ゾンビ小説は面白かったことがあんまりないんだよなぁ。ゾンビを字でいくら描写されても、映画の1コマほどの説得力も持ち得ない。また、ステロタイプなゾンビから逸脱すると、ネタ的になって、コメディに近づいちゃうから、ホラーとしてのブレイクスルーも難しい。
ところが、この作品、ゾンビ自体はそれほど描かず、それによって引き起こされた混乱と社会の激変を、人種も職業も様々な人々に語らせることにより、ゾンビの恐怖を浮かび上がらせることに成功している。また、全世界がゾンビ禍に飲み込まれていく様も詳しく書かず、場所、時系列を断片的に散りばめているため、かえって広がりが見える。
さらに空間的な広がりだけでなく、ゾンビ大戦後10年経っているため、当然常識となっている事柄や、未だに不明の状況(北朝鮮の現状とか)などの説明がないところが時間の奥行きを感じさせ、オタク的くすぐりもあって巧み。
それらの効果も考えて、あえてゾンビの生態はごく一般的な設定にし、また、パンデミックの様子はSARSが想起され、物語に没入しやすくなっている。
そうかと言って、全くゾンビ描写がないわけでなく、海からゾンビが続々と上がってくるという画面映えする嬉しいシーンもちゃんと、しかも理屈づきで出てくる。
アメリカ以外の描写がちょっと変なのがハリウッド的(日本がサムライっぽかったり)だけど、同時にインタビュー集という体裁だからこそ描けた世界の破滅であり、ゾンビ小説のベストではないかと。
オススメ。