СОБАЧЬЕ СЕРДЦЕ

犬の心臓 (1982年) (河出海外小説選〈36〉)

犬の心臓 (1982年) (河出海外小説選〈36〉)

『犬の心臓』ミハイル・ブルガーコフ河出書房新社

回春術の権威フィリップ・フィリッポヴィチ・プレオブラジェンスキー教授に拾われた野良犬シャリクは、死んだばかりの若い男の脳下垂体と睾丸の二重移植を施される。シャリクの体は変化していき、ついには人間ポリグラフポリグラフォヴィチ・シャリコフとなる。しかし、その振る舞いは粗暴で……

ブルガーコフの作品は社会主義批判のメタファーとして、奇想ネタが使われているんだけど、『運命の卵』*1同様にこちらもSFとしてちゃんと成立している。
人間の脳下垂体と睾丸を移植されたことによって、人間のようなものへ変身していくシャリクがひじょうにグロテスクで、その姿は奇形的。
モロー博士や原典を持ち出すまでもなく、フランケンシュタイン・コンプレックスに陥るのは目に見えているんだけど、これと「人間のようなもの」というのが、やはり政治批判を無視しては読むことができない。
ここでは、シャリクが粗暴で礼儀がなっておらず、読者の敵意が向かうように描かれているけど、彼は当たり前の人間としての権利を訴えているにすぎない。人間の姿になったところで、所詮は「犬の心臓」のまま。政府にとって教化できない国民は「人間のようなもの」にすぎず、思うようにできないのならば始末するのが手っ取り早い。そして、犬はそれに抗うこともできない。
この作品では、フランケンシュタイン・コンプレックスの傲慢さが、他の類似作品よりも際立っているように感じた。


読む前の印象で「犬の目」みたいだと思っていたけど、時代的にも無関係だね。