EL PASO DE LA HELICE

螺旋

螺旋

『螺旋』サンティアーゴ・パハーレス〈ヴィレッジブックス〉
トリプルクラウンSF小説」小説。

大ベストセラー小説『螺旋』の作者トマス・マウドは、本名も顔もわからない正体不明の作家。5年以上続編が出ておらず、編集者ダビッドは、探し出すように社長に命じられ、その作家が住んでいるとおぼしき村に向かう。目立つ特徴があると推測され、すぐに見つかると思いきや……。一方、麻薬依存症の書年フランは、盗んだバッグに入っていた『螺旋』をふと読み始めるが……。

先入観に囚われてはいけませんね。
題名といい、あらすじといい、訳者といい、終盤まで、きっとマジックで、リアリズムで、またはメタな作品だと期待していたら、全く普通の小説でした。
そういう意味では裏切られたわけだけど、そんなこととは関係なく面白い。
前半は謎の作家トマス・マウドの正体探しで一気に加熱させられ、後半は一転して、人間と物語が持つ優しさが染み渡っていく。人は一人で生きて行かなくてはいけない時もあるけど、そんなときに支えになるのが物語であり、それが持つ引力によって、また人々が結びついていく。
優れた物語は、空間だけではなく、時間に沿っても広がり、想いのDNAが次代に伝えられていく。だから、『螺旋』に関わった主人公たちは各地に散り、ちゃんと受け継ぐべき子供を成していく。
なんでもかんでも、悪夢的な展開を期待しちゃうのは、悪い読者だね(笑)
ちなみに、『螺旋』自体はありふれたSFファンタジー風でイマイチ面白そうでないんだよな。