The Selected Works of T.S.Spivet

T・S・スピヴェット君 傑作集

T・S・スピヴェット君 傑作集

『T・S・スピヴェット君 傑作集』ライフ・ラーセン〈早川書房
ポチるまで値段に気づかず、ビックリした一冊(笑)

モンタナに住む十二歳の天才地図製作者、T・S・スピヴェット君のもとに、スミソニアン博物館から一本の電話が入った。それは、科学振興に尽力した人物に与えられる由緒あるベアード賞受賞と授賞式への招待の知らせだった。過去にスミソニアンにイラストが採用された経緯はあるものの、少年はこの賞に応募した覚えはない。これは質の悪いいたずら? そもそも大人に与えられる賞では? スピヴェット君は混乱し、一旦は受賞を辞退してしまう。だがやがて、彼は自分の研究に無関心な両親のもとを離れ、世界一の博物館で好きな研究に専念することを決意する。彼は放浪者のごとく貨物列車に飛び乗り、ひとり東部を目指す。それは、現実を超越した奇妙な旅のはじまりだった。アメリカ大陸横断の大冒険を通じて、自らの家族のルーツと向き合う天才少年の成長と葛藤を、イラスト・図表満載で描き上げる、期待の新鋭による傑作長篇。

註釈小説の変化球と言ったところかな。
主人公のT・Sは絵が上手く、記録魔なため、本文中に図表が多く、その註釈もまた図表と解説になっているため、本のサイズはかなり大きい。
そういうレイアウトはなかなか楽しいものの、肝心の内容が、イマイチ乗れなかったんだよなぁ。
「現実を超越した奇妙な旅」って言うのに期待したんだけど、その印象は薄く、そもそもそれがメインではないんだよね。子供、一人旅、家族のルーツ、と要素を並べるとマジック・リアリズム的なものを予想しちゃうけど、T・Sの性格が生真面目だからなのか、イマイチぶっ飛びが少ない。母が書いた小説やスミソニアンに到着してからの方が面白いけど、旅が盛り上がらないロードものって言うのもなぁ。


むしろ、猟銃事故の瞬間の走馬燈と読んだらどうか。
電車での長い旅、彼岸とも思えるようなワームホール、ミドルネームであるスズメをめぐる出来事、都合よく助けを差し伸べる人々、親は死んだという嘘、自分が求めていたアカデミックな状況、そしてトンネルを抜けて光が見えるラスト……


いや、メタファーがわざとらしいほど揃いすぎているな。
作中でも、T・Sは死を望んでいたと語っており、旅(=死)を体験し、それを克服することによって、成長(生まれ変わり)し、それまでとは違う世界が見えるようになる。天才ではあるが、年齢を偽った旅を終えて、自分がまだ子供であること、そして急いで大人にならなくていいことも知る。それもまた成長。
そこに現れる、母の想い、父の素顔はなかなか感動的。


正直、内容は趣味でなかったんだけど(レイアウトは別にして)、色々と読み込める一冊だとは思う。