紀大偉作品集『膜』
台湾セクシュアル・マイノリティ文学[2]中・短篇集――紀大偉作品集『膜』【ほか全四篇】 (台湾セクシュアル・マイノリティ文学 2)
- 作者: 紀大偉,黄英哲,白水紀子,垂水千恵
- 出版社/メーカー: 作品社
- 発売日: 2008/12/25
- メディア: 単行本
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台湾のクィア(同性愛テーマ)作家のSF短篇集。
収録作品
・「膜」
2100年。オゾン層の破壊により、海底へと移住した人類。
トップレベルの腕を持つエステティシャンの黙黙は、クリーム状のスキャナーを客に塗り、その情報を覗き見ることを楽しみにしていた
彼女の30歳の誕生日、20年間会っていなかった母が突然やってくることに。
母は出版業界の大物なのだが、なぜ今になって?
台湾SFというと『星雲組曲』*1がイマイチだった記憶があったんだけど、そんなことや同性愛テーマなどは気にならず、普通に面白いSF。というか、久々にSFらしいSFを読んだ気が(笑)
膜という、謝絶をイメージさせるとともに、皮膚的な感触のある単語。それが、海と人、人と人、肉体と心、と登場するもの全ての間にある。主人公の黙黙は、常に自分が膜に包まれていると感じ、実際に他人や外出に興味がない。母との関係も完全に冷え切っていて、その理由、関係修復はSFならではの母娘物語。
物語のキーにもなっている皮膚膜スキャナーがなかなか印象的で、それによる母のパソコンへのハッキングはかなりしびれる。そこに現れるものにゾッとし、そこから、イマイチ判然としなかった黙黙の一人語りと世界の真相が明らかになり、それまでとは違うベクトルのSFにシフトする様は素晴らしい。
SF的にはガジェットも、ラストも今さら珍しくないんだけど、そこから目を逸す手際は鮮やか。オススメ。
解説で言及されていないけど、登場人物の伊藤富江は、伊藤潤二と「富江」*2から。
・「赤い薔薇が咲くとき」
強力な幻覚剤販売によって、世界支配の版図を広げるSM社。
その秘密を探るべく、ある惑星に潜入した〈機関〉の諜報員。
しかし、彼はその幻覚剤の虜になって……
この作品も、ラストで見えていなかった真相へとシフトするんだけど、ちょっとイマイチ。
・「儀式」
娘の卒業式に出た父親。
そこで青春時代の親友が教師をしていることを知る。
彼とは、ホモセクシュアルな関係を迫られてから、断絶していたのだが……
この短篇集全体を通したテーマが「記憶」で、その意味では、メタでこれが一番面白かったかな。非SFだけど。
・「朝食」
愛人と夜を過ごしたときは、家族に朝食を作りに戻ることをルールとしている男。
しかし、愛人と激しく燃えてしまい、朝食に間に合わず……
奇想・異色系として、これはかなり気に入った。
みんなよかったけど、気に入ったのは「膜」と「朝食」