Bubba Ho−Tep and Other Stories

現代短篇の名手たち4 ババ・ホ・テップ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

現代短篇の名手たち4 ババ・ホ・テップ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

『ババ・ホ・テップ』ジョー・R・ランズデール〈ハヤカワHM362-4〉
現代短篇の名手たち4。
ついに本命が来ましたよ! ……というか対抗がいないんだけど。


収録作品
・「親心」Walks
 母親が亡くなってから、すっかりふさぐようになった息子。
 夜になるとどこかに出かけ、部屋には絞殺魔の記事のスクラップが……


・「デス・バイ・チリ」Death by Chili
 ハップ&レナードもの。
 何年も前から、チリ名人の死は謎だった。
 自殺という見解だが、そのレシピを狙った殺人では?


・「ヴェイルの訪問」Veil's Visit
 ハップ&レナードもの。
 レナードが放火の罪で裁判に。
 ハップの昔の知り合いが、その弁護を担当する。


・「ステッピン・アウト、一九六八年の夏」Steppin' Out Summer' 68
 悪ガキ三人組。 
 5ドルでやらせてくれるという女の元に行くが、それはデマだとわかり、ガッカリ。
 その帰り道、リーダー格の頭に煙草の火が燃え移り、あわてて道に飛び出すとトラックが……
 最初から最後まで、完全にダメづくし。
 かなり陰惨な状況なんだけど、彼らがのほほんとしているのがいいんだよね。


・「草刈り機を持つ男」Mister Weed Eater
 盲目の男が、草刈りの仕事具合を見て欲しいと頼んできた。
 ひどい有様なのだが、ちょっと家で一休みさせると……
 乗っ取りものなんだけど、かなり嫌な気分になる。
 身障者への先入観と強烈な悪意のギャップ。
 主人公も善人ではないんだけど、彼の仕打ちを思わず応援してしまう嫌悪感。


・「ハーレクィン・ロマンスに挟まっていたヌード・ピンナップ」The Events Concerning a Nude Fold-Out Found in a Harlequin Romance
 失業中の男が、アパートの1階にある古本屋で棚卸しのバイトをしていると、
 不気味なヌード・ピンナップがハーレクィン・ロマンスに挟まっていた。
 娘と店主は、それを売りに来たサーカス芸人が怪しいと、監視を始めるが……
 それ、アリ!? というどうでもいい展開なんだけど、読後は何とも楽しい気分に。確かにこれはつづきが読みたい。


・「審判の日」The Big Blow
 20世紀初頭。
 スポーツクラブで、チャンピオンとなった黒人選手。
 それを苦々しく思うオーナーたちは、人殺しも辞さないボクサーを呼び寄せる。
 一方、町には猛烈なハリケーンが近づきつつあった……
 これは、住民のエピソードを膨らませて、長篇で読んでみたい。
 途中のホモエピソードがツボ(笑)


・「恐竜ボブ、ディズニーランドに行く」Bob the Dinosaur goes to Disneyland
 生きている恐竜の人形のボブ。
 寝ても覚めても口にするのはディズニーランドのことばかり。
 とうとう、念願のディズニーランドに行くのだが……
 ボブが非現実な存在なのに、非現実(ファンタジー)に憧れ、現実を知るまでの成長譚。
 さらに成長すれば、彼もまた色々見えてくるよ(笑)


・「案山子」The Companion
 釣りの帰り道、不気味な案山子を見付ける。
 胸に杭が打ってあり、それを抜くと……


・「ゴジラの十二工程矯正プログラム」 Godzilla’s Twelve Step Program
 人間と共生していくために、更正プログラムを受けているゴジラ
 しかし、やはり昔のように、火を吐き、人間を踏み潰したい。
 ある日、とうとうそのストレスが爆発し……
 どこで泣いていいのかわからないほど、泣き所満載。
 『ダークナイト・リターンズ』*1に匹敵する、ロートルヒーローものの傑作。
 ガメラはなんであんなに頭悪いの?
 レプティリカスが映画同様つまらないお役人になっちゃってるのも……(笑)


・「ババ・ホ・テップ」Bubba Ho-Tep
 死んだのはそっくりさんで、実は老人ホームで生きていたプレスリー
 しかし、もうよぼよぼのじいさん。
 ある日、ケネディ大統領だと自称する入居者(黒人)から、驚くべき事実を告げられる。
 ホームにエジプトのミイラが潜んでいて、老人たちの魂を食べているというのだ。
 二人は、ホームと仲間を守るため、戦いを決意する!
 『プレスリーvs.ミイラ男』*2の原作。
 かなりやっつけな展開なんだけど、それを感じさせない独特の勢いがあるよなぁ。
 これも泣き所多し。キモサベー!
 改めて読むと、信用できない語り手ものとしても読むことができるね。
 内容じゃなくて、本当にプレスリー本人かどうかって所が(笑)


・「オリータ、思い出のかけら」O’Rita, Snapshot Memories
 ランズデールの母についてのエッセイ。
 まるで、この短篇集のエッセンスのよう。
 いい話です。


変な話好きとしては、『洋梨型の男』*3に続いて必読短篇集だなぁ。
ただ、こちらの方がイロモノ度合いが強く、同時に単なるイロモノで終わらない。ダメな主人公が、ダメなりの努力をして、ダメなカタルシスを得る。けっしてダメな状況を抜け出すわけではないんだけど、ある種の達成感があり、そこに感動と悲哀を覚えてしまう。


みんないいんだけど、お気に入りは、「ステッピン・アウト、一九六八年の夏」「ハーレクィン・ロマンスに挟まっていたヌード・ピンナップ」「審判の日」「恐竜ボブ、ディズニーランドに行く」「ゴジラの十二工程矯正プログラム」「ババ・ホ・テップ」。最後の三作は既読なんだけど、何度読んでも面白い。


解説で、『Silver Scream』*4が近刊予定とあったけど、数年前にも見たような……。デジャヴ?


正直言って、「現代短篇の名手たち」はランズデール以外、楽しみなのがないんだよなぁ。
思いの外、他のラインナップが普通にミステリの短篇集だったのが残念……