粘膜蜥蜴

粘膜蜥蜴 (角川ホラー文庫)

粘膜蜥蜴 (角川ホラー文庫)

『粘膜蜥蜴』飴村行〈角川ホラー文庫
粘膜人間 (角川ホラー文庫)がよかったので着手。

国民学校初等科に通う堀川真樹夫と中沢大吉は、ある時同級生の月ノ森雪麻呂から自宅に招待された。父は町で唯一の病院、月ノ森総合病院の院長であり、権勢を誇る月ノ森家に、2人は畏怖を抱いていた。〈ヘルビノ〉と呼ばれる頭部が蜥蜴の爬虫人に出迎えられた2人は、自宅に併設された病院地下の死体安置所に連れて行かれた。だがそこでは、権力を笠に着た雪麻呂の傍若無人な振る舞いと、凄惨な事件が待ち受けていた…。

3部構成で、それまでの流れをぶった切り、全く違う状況に投げ込まれるような場面転換と、そのそれぞれが強烈な色彩を放っている世界は前作同様。グロテスクな主旋律に、どこか上滑り(いい意味で)しているようにキャラクター、そして奥底には純愛。
二次大戦下の物語か、となめていると、1ページ目からいきなり現れるヘルビノで尻餅をつくことになり、あとは、一気に、次から次へと現れる狂気のビジュアルに引き込まれる。


第一部は、雪麻呂の権力に翻弄される真樹夫の物語。残酷・グロ描写はあるものの、小粒で助走に丁度いい。ホルマリンのプールを照れることなく出すのもいいね。
第二部は、真樹夫の兄、美樹夫が戦地で遭遇する秘境冒険もの。『フラグメント超進化生物の島 (ハヤカワ・ノヴェルズ)』が『ジュラック・パーク』だったのに対して、こちらはヤコペッティ、というか『食人族』(笑)。ワニの脳を刺激する生理的嫌悪感。クリーチャーが、CGではなくて、血肉を備えているのが魅力的。
第三部は、雪麻呂の母と従姉妹に対する愛の物語(一番人体破壊率高いけど)。そして、愛はホラーに最も近い。また、最初から散りばめられていた、雪麻呂の母の行方を示す伏線が回収される様はミステリのようでもある。
ラストの、愛情と狂気と恐怖が一体となった一行は、凄すぎて笑った。


描写に眉をひそめる人もいるかもしれないけど、かなりエンタメに徹していると思う。
でも、一番の見所は、坊っちゃん応援歌だろうなぁ。「キチガイ地獄外道祭文」に比肩すると言ったら褒めすぎ?(笑)