MISTER PIP

ミスター・ピップ (EXLIBRIS)

ミスター・ピップ (EXLIBRIS)

『ミスター・ピップ』ロイド・ジョーンズ〈白水社EX LIBRIS〉
EX LIBRIS第4弾。

1990年代初頭。ブーゲンヴィル島はパプア・ニューギニア政府によって封鎖されていた。島の唯一の白人ミスター・ワッツが、学校で、ディケンズの小説『大いなる遺産』を子どもたちに1章ずつ朗読し始める。最初は、まるで違う英国の生活に戸惑う子どもたちだが、主人公ピップの世界に引き込まれていく。人一倍ピップに親近感を持つマティルダが砂浜に書いた「PIP」という文字を、政府が送り込んだレッドスキン兵が革命軍の人間だと思い込み、差し出すよう要求する。説明しようとするが、教室から『大いなる遺産』が消えており、怒った兵士たちにより、村は荒らされる……

恥ずかしながら、パプア・ニューギニアで紛争が起きていて、それがつい最近の話と言うことを全く知りませんでした。


想像の力と欠如の物語。
それらが現実に与える影響は、「そんな質問を始めたら、珍しい特別な物が普通のつまらない物に色褪せてしまうかも知れないと感じたから」と冒頭で語られている。
想像力はある種の魔法であり、『大いなる遺産』が全てではなく、それは触媒に過ぎない。人間にはそれぞれ語るべき物語(=想像力)があり、大人たちの教室での語りによって、独立抗争の暗い影が迫る中、子どもたちは平穏を得る。また、そこでは騙り(=語り)はけっして悪ではなく、荒々しい革命軍の若者さえも魅了させる。
一方、欠如が及ぼす最たる結果が、レッドスキン兵による蛮行。彼らは語ることも、それを聞く能力も持たない。それによって、マティルダは感情を喪失し、彼らによる惨劇でさえ、淡々と語る様が最大の悲劇。
冒頭で言われる、「普通のつまらない物」だが、人生には特別な物しかなく、想像が欠如したときこそがつまらない結果を生む。マティルダは悲劇によって、欠けたそれを埋めていくことによって再生を果たしていく。


趣味ではないんで、こういう機会でないと読まない類の本だなぁ。