RAINBOWS END

レインボーズ・エンド上 (創元SF文庫)

レインボーズ・エンド上 (創元SF文庫)

レインボーズ・エンド下 (創元SF文庫)

レインボーズ・エンド下 (創元SF文庫)

『レインボーズ・エンド』ヴァーナー・ヴィンジ〈創元SF文庫705−05、06〉
2007年度ヒューゴー賞受賞作。
初めて(で最後?)ヒューゴー賞受賞をこの目で見た作品。個人的には、訳して欲しかったんで『Blindsight』を応援してたんだけど。

ネットワークとウェアラブル・コンピューティングが高度に発展した未来。サッカー場で流れたCMから、人間をマインド・コントロールする細菌兵器の存在に偶然気づいたEU諜報部。それを阻止するため、正体不明のハッカー、ウサギを雇ってサンディエゴのバイオ研究所の乗っ取りを計画する。そのサンディエゴで暮らしている、高名な詩人だったロバートは、新たな治療法により、アルツハイマーから、外見までもが若返って復活した。中学校の成人教育クラスの生徒になるが、プライドと他人をバカにする性格の彼としては屈辱。一方、ウサギは、バイオ研究所に隣接する大学で始まった、図書館の本を全て断裁し、それをデジタル化するという行為に反対する運動を利用することにする。ロバートをその大学に誘導するが……

♪ぼ、ぼ、ぼくらは老年探偵団〜


世界の命運を賭けた陰謀が企まれているんだけど、焦点は高度なユビキタス社会での日常描写がメインで、主人公かと思っていたEU諜報部やウサギ、黒幕は早々に背景に。
どんなにコンピューティングが発達しても(発達したからこそ)、老人福祉、家族問題、バーチャルよりもリアルを守ろうとする行為は変わらず、世界よりも、人生の一大事。若返ったおじいちゃんも、自己のアイデンティティと、新たな友情、家族のために頑張ってしまう。
小説としては地味で、いろいろと尻つぼみで腑に落ちないところもあるんだけど、この未来の描写に引き込まれる。あるかもしれないことを書くのがSFなら、まさにこの作品は、今現在の空気感から見えそうな情景。
てっきり、シンギュラリティものかと思ったら違うのか、という印象だったんだけど、これは今と同じく、シンギュラリティに向かっている最中の物語なんだよね。世界中のネットワークとコンピューティングが高速化する中で、まだ世代間は完全には別物にはなっていない。しかし、確実に次の段階へと進もうとしている、その夜明け前の一瞬の静寂を描いたと考えると、見事だと言うべきなのかなぁ。ホントに、予想外に地味なんだけど。


ところで、バスルームの箱は何?


同じくネットワークを描いた短篇「クッキーモンスター」も傑作。