オオカミがきた

・『オオカミがきた』作・三田村信行/絵・中村宏理論社
おとうさんがいっぱい (新・名作の愛蔵版)でちびりかけた記憶も新しいですが、再び着手。
オオカミをテーマにした連作集。


収録作品
・「オオカミをみた」
 電車の網棚にオオカミを見たユキオ。
 オオカミは増え、車内を走り回るが、他の乗客はまるで気づかない。
 いつの間にやら、電車の外は草原になり、「きみも外へでてみないか?」と誘われるが……


・「オオカミは走る」
 ユキオが買ったもらった絵本。それはこんな内容だった。
 動物園を脱走した片耳と灰色の二匹のオオカミ。
 彼らはひたすら山を目指して、走り続けるが……
 会社員になってから『宇宙船サジタリウス』を見たときと同じような感触を受けてしまった。
 今の状況と重ね合わせて、色々悩んじゃう。
 片耳と灰色、どちらの生き様を選ぶか。


・「オオカミに ゆめなし」
 動物園に行った夜、ユキオの元にバクが現れる。
 バクは10年に一度、不思議な能力が使えるというのだ。
 彼に誘われて動物園に行くと、動物たちが夢を見ている。
 しかし、オオカミだけは夢を見ず、昔のライバルとの対決を望んでいた……


・「オオカミのいる海」
 家族と、分譲地の見学に行ったユキオ。
 オオカミに誘われて行くと、目の前に大海原を泳ぐオオカミたちが現れる。
 「いっしょに来ないか」と誘われるが……


・「オオカミ オオカミ」
 朝早くに学校に着いたユキオ。
 しかし、誰もいない。
 机の上にオオカミのぬいぐるみがあり、それを着るとまるで本物のオオカミのよう。
 クラスメートを驚かせようと教室に行くと、そこはオオカミでいっぱいだった。
 みんな、人間の振りをするのに飽きたオオカミたちだという。
 一緒に街に飛び出すが……
 実感は出来ないけど、何か当時の空気を感じられる一作。


・「オオカミがきた」
 雨で、駅までお父さんを迎えに行ったユキオ。
 しかし、そこに現れたのは、癖も何もかも違うお父さんだった。
 偽者だと気づいたユキオが傘を持ってぶつかっていくと、男は逃げていく。
 再び駅に向かうと、いつもどおりの時間に、いつもと同じお父さんが降りてきた……
 後味悪〜。これ、なんてディック? というかラストの一文は完全にホラー。
 連作の最後の最後で、浮いてるんだよなぁ。
 イマイチ意図が読めない。


奇想好きとしては、「オオカミ オオカミ」と「オオカミがきた」かな。「オオカミをみた」の幻想味も悪くない。
社会人としては、「オオカミは走る」は身につまされます。


狂言回しでもあるユキオが成長して行くにつれ、彼の中の夢や本来持っていた野生が消えていき、現代社会の常識に沿っていってしまう、と読めるんだけど、後半の「オオカミ オオカミ」と「オオカミがきた」は、そういう枠にはまった人生になってしまうつまらなさ、とは別の悪夢感。
児童書なのに子供が……