CHILD 44

チャイルド44トム・ロブ・スミス新潮文庫ス25-1、2〉
今年のベストとという声もよく聞かれるので着手。

スターリン体制下のソ連。国家保安省の敏腕捜査官レオ・デミドフは、彼を嫌う副官の策略で、片田舎の民警へと追放されてしまう。そこで発見された少女の惨殺死体は、彼が以前遺族に事故と説得した少年の遺体とそっくりだった。容疑者として、知的障害者や同性愛者など政府から不要とみなされた人々が処刑されていく。犯人は社会に溶け込んだ市民に違いないと独力で捜査するレオだが、その行為はソ連に対して反逆にも等しいものだった。自分のみならず家族の命も危機にさらしながら、レオは犯人に迫るが……

社会主義国家は、万人が平等で幸せなのだから、犯罪が起こるはずもなく、よって警察も必要ない。
この論理が狂っていると思うこちらが狂っているのか。この理想通り世界が回れば楽園に見えるけど、社会主義が崩壊したのを見ると、やはりシステムが狂っていたのか、それともトップが腐敗しなければシステムはちゃんと機能したのか……。全く不勉強なので、ストーリーよりも、世界設定としての社会主義の描写で色々考えてしまった。
社会主義のもとでは、こんな猟奇殺人は存在するはずがなく、その為に捜査もされずに犯人は犯行を怪しまれることなく繰り返していく。レオの敵は犯人や密告者だけでなく、社会そのもの。人間が先ではなく、制度が先にあるんだよね。まぁ、それ言ったら、日本も同じようなものか(笑)
信頼する者ほど疑え、という社会主義体制下は、あらゆるものを疑い、疑われる。その機構の優秀なパーツであるレオは、ある意味ロマンチスト。しかし、キャリアからの失墜と事件により、自分が信じ、愛していたものの現実を目の当たりにしてしまう。徹底的に破壊された彼はそこから、時分自身の人間性、夫婦、家族、そして最終的には社会の正常なる再建を目指していくこととなる……
正直、ベストベストというには、腹にたまるような重量感がないと思うんだけど、とにかく社会主義体制下のグロテスクな世界を舞台にしたことで、緊張感はかなりのもの。ひじょうにリーダビリティはよく、ハリウッド映画的で上下巻一気読み。