変愛小説集

変愛小説集

変愛小説集

『変愛小説集』岸本佐知子編〈講談社
岸本佐知子編で、この題名と来たら、どんな意地悪な「愛」が読めるのかと、素通りできんでしょう。


収録作品
・「五月」…… アリ・スミス
 他人の庭に生えていた木に恋してしまう。
 寝ても覚めてもそのことばかり考えて一日を過ごす……
 原文では主人公たちの性別がわからないように書いてあるとか。
 訳文だと、レズのカップルに見えるなぁ。


・「僕らが天王星に着くころ」……レイ・ヴクサヴィッチ
 皮膚が徐々に宇宙服になり、それが完成すると空に舞い上がってしまう病気。
 妻がそれに罹り、夫はなんとか一緒にいようとするが……
 

・「セーター」……レイ・ヴクサヴィッチ
 恋人がプレゼントしてくれたセーター。
 しかし、頭がきつくて出ない。
 ここから出るには懐中電灯が必要だ……
 ぶっ飛んでてていいなぁ。
 普通の恋人同士の会話から地続きで、異次元へ直行。


・「まる呑み」…… ジュリア・スラヴィン
 芝刈りの青年とキスをした有閑マダム。
 その唇を吸い、ついには彼を飲み込んでしまう。
 彼女の体内で、彼は好き放題やり始める。


・「最後の夜」…… ジェームズ・ソルター
 末期癌の妻。
 安楽死できる注射を処方してもらい、最期の晩餐を迎えるが……
 これは妻を軸にしているところが意地悪だなぁ。


・「お母さん攻略法」……イアン・フレイジャー
 身近で親愛なるお母さんと付き合おう!
 これは漫画で見てみたい(笑)


・「リアル・ドール」……A・M・ホームズ
 妹のバービー人形と付き合うことにした少年。
 人目を忍んで逢瀬を続けるが、妹はいつも彼女を虐待し、さらにはケンもいて……
 ホームズの作品は生理的に来て、とても素晴らしい(笑)
 ケンの体に中出ししちゃうところが傑作。


・「獣」…… モーリーン・F・マクヒュー
 大好きな父と教会へ行く少女。
 そこに、得体の知れない怪物がいて……
 これはいろいろ深読みしちゃうなぁ。


・「ブルー・ヨーデル」…… スコット・スナイダー
 婚約者が乗っている(らしい)飛行船を車で追い続ける青年。
 ダメな感じが何とも。


・「柿右衛門の器」…… ニコルソン・ベイカー
 陶芸家の女性。
 大好きな大叔母のため、牛骨粉を使って試行錯誤する。
 ついに納得できるものが完成できるが……
 これはホラーなの? ラストは笑っちゃったんだけど。


・「母たちの島」…… ジュディ・バドニッツ
 戦争で男が一人もいなくなった島。
 ある日、敵兵がやってきて、女たちは恋に落ちる。
 そして、子供たちが生まれ、少女たちは父が戻ってくる日を待つ……
 オールドファッション風なんだけど、このグロテスクさはやはりバドニッツか。


リンク、マコーマック、バドニッツのラインが好物の人には、是非オススメの一品。
どれもアタリなんだけど、敢えて個人的お気に入りを選ぶなら、「僕らが天王星に着くころ」「セーター」「まる呑み」「お母さん攻略法」「リアル・ドール」「柿右衛門の器」あたりかなぁ。いや、どれも面白くて難しい。
知らない作家も多く、奇想・異色系はまだまだいるなぁ。特にレイ・ヴクサヴィッチは他の作品も是非読んでみたい。


ちなみに、最初「恋愛小説集」で探していたら全く見つからなかったので、皆さんもご注意(笑)