THE SHADOW OF THE TORTURER

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『拷問者の影』ジーン・ウルフ〈ハヤカワSF1660〉
学生時代、周りに天野喜孝好きが結構いた。局地的だろうが世間的にだろうが、流行物には背を向ける嫌なガキだったので(今もだけど)、新しい太陽の書シリーズは未読。
ジーン・ウルフ天野喜孝の人、と言うダメな刷り込みのまま時は流れて21世紀。「アメリカの七夜」にやられる。
で、新装丁で、なおかつ未訳分も出しちゃうよ、という復刊商法に見事に引っかかり着手(笑)

遙かな遠未来、ゆっくりと死にゆく惑星ウールス。〈拷間者組合〉で才能ある徒弟として働くセヴェリアンは、捕らえられてきた貴婦人セクラに恋をする。長い期間、何もされず幽閉されたままの彼女から、セヴェリアンは様々なことを教えられ、友情を深める。しかし、ついに拷問がかけられ、彼は組合を裏切ってセクラに速やかな死を与える。組合を追放されたセヴェリアンは、新たな任地として遙か北を目指す……

よく、SFファンタジイ史上最高のシリーズなどと謳われていますが、この無限に広がるヴィジュアルにメロメロ。
あらすじを一言で表すと、組合を追放されました、以上の展開はないんだけど、途中に挿入される数々のエピソードが眩暈がするように素晴らしい。最初は、中世ヨーロッパ風ヒロイックファンタジーかと思いきや、エキゾチックな全くの異世界だとわかる。
姿の見えてない独裁者、巨大な図書館、外よりも中が広い植物園、死体が腐敗しない湖、毒草での決闘、鳥さえも越えられないような壁……
読んでいくうちに、その細部から、どうやらこちらの世界とつながってはいるらしいが、いつともどことも知れぬことが見えてくる。ジャングルの小屋にいる、違う時間を見ている男たちはぞっとした。
世界の全体像はまだ見えてこないが、その細部があまりに魅力的で、まるで気にならず、それを追ううちに物語が終わってしまう。
さらに、語り手は信頼できず、そして、それを我々が読める言語に訳している著者も信頼できない。そもそも、著者はいつどこでこれを書いているのか?
表紙でパスしててスミマセンでした。次巻が楽しみ。


新装版の表紙は、これはこれでいいんじゃないでしょうか? むしろ、背が黒いのにビックリ。絵柄以外で、青、白以外は初めてじゃない?