THE END OF MR. Y

[rakuten:book:12672702:detail]
『Y氏の終わり』スカーレット・トマス〈早川書房

指導教授が謎の失踪をしてから1年。大学院生のアリエルは偶然入った古本屋で、ずっと探していた『Y氏の終わり』を見つける。それは呪われた本と言われ、世界に一冊しか現存していないとされていた。そこに描かれている人の心に入る方法を試してみると、それは本当のことで、さらにはトロポスフィアという不思議な世界にも足を踏み入れる。しかし、本を狙う謎の男たちに襲われる。教授の失踪も関係あるのか? アリエルは旅に出ることに……

異色・奇想系とはまた違った意味で、不思議な感触の小説。
本の解説に「ミステリの興奮、SFの思索、ファンタジイの想像力」とあるように、かなりジャンルミックスされた作品。しかも、パッチワークのような継ぎ目は感じさせず、物語中に出てくる人の心の中をサーフィンするように、滑らかにジャンル間をシフトしていく。
思考とは? ことばとは? 神とは?
最初のうちはアリエルの刹那的な生き方に取っつきにくいんだけど、トロポスフィアで思考についての理解を深めていくと同時に、彼女自身の心もほぐれていく。
世界の構造はかなりダイナミックで、例えると『万物理論 (創元SF文庫) [ グレッグ・イーガン ]』に近いかも。……近くないか? 
結末は、SFとして、ミステリとして、ファンタジーとして、思索小説として、それともメタフィクションとして迎えるのか、読みながら色々探ってしまいましたが、なぜか映画『NOTHING』が頭に浮かんでしまった(笑)
アダムとはなぜ会ったときから惹かれ合ったのか、『Y氏の終わり』はなぜ1冊しか残っていないのか、その他疑問がちょろちょろあって、それが全て観測に収束していくと思ったんだけど、その辺の説明がなかったのがちょっと残念かな。
でも、この物語の理論からすれば、ミステリも、SFも、ファンタジイも、フィクションもノンフィクションも、読者も、全て同列という感覚はなかなかオススメ。