THE ARRIVAL

The Arrival

The Arrival

『THE ARRIVAL』Shaun Tan〈Arthur a Levine〉
いつもお世話になってるa nanny mouseさんのオススメ・グラフィック・ノベル。

巨大な尻尾の影に怯える貧しい町。妻子と別れ、一人海を渡って大都市へ出稼ぎにやってきた男。言葉は通じず、なかなか仕事も見つからない。しかし、アパートにいた奇妙な生物と一緒に街を歩き、心優しい人々に助けられながら、再び家族一緒に暮らせることを夢見る……

台詞はなく、出てくる文字も架空なので、あらすじは脳内補完。もしかしたら全然違う話だったりして。
鉛筆描きのような質感はひじょうに好み。フーゴ・ハルにちょっと近いかも? 架空の街と変な生物にあふれているんだけど、生活感あふれ、どこかノスタルジーを感じる町並みは本当に魅力的。また幻想的でありながら、強く実体を伴っていて、圧制(虐殺?)から逃げてきた夫婦の過去は圧倒的。
最初は主人公の表情は重く、風景も曇りのようなトーンなんだけど、後半に進むにつれ、彼の顔も明るく、そしてページも光り輝くようになっていく表現は素晴らしく、グラフィック・ノベルならでは。『岸辺のふたり [DVD]』や『アンジュール―ある犬の物語』に近い余韻があるかな。


ヴィジュアルに浸るだけで、読み解きは不要なのかもしれないけど、表紙にいる、グロテスクでありつつキュートな生き物が何を表しているのか、いろいろ考えてしまう。大都市の海の玄関口にそびえる巨像や、助けてくれる人々が必ず動物を連れているのを見ると、善意や親切心、または平穏の表れなのかな? などと考えてしまう。また、途中で出会う人々が語るファシズム的な過去には現れて来ないし、主人公もだんだんと可愛がるようになってくるんだよね。


まぁ、下手な深読みは無視して、ファンタジーの傑作としてオススメ。
この作者のほかの作品も気になる。