CHINA SYNDROME

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『史上最悪のウイルス(上下)』カール・タロウ・グリーンフェルド文芸春秋〉読了

中国の広東省のいくつかの都市で、酢を蒸発させると流行り病の予防が出来ると、酢の売り切れが続発しているという。民間信仰の一種だろうと、無視されるのだが、それがメディアに載った第一報だった……
広州で謎の病気が流行しているという。患者は呼吸困難になり、あらゆる治療法が効かず、入院から3日で重体になる。しかも、医者や看護師に感染し、どんどん患者が増えているという。
折りしも、香港の公園で鳥インフルエンザが発見されていた。ついに、人間に感染したのか!?
病気のことを全く認めようとしない中国政府。しかも、病気はすでに終息していると発表。
広州から香港にやってきた医師が発病し、ホテルで倒れる。
香港のアモイ・ガーデンを中心に、爆発的に感染者が増加。一方、シンガポールトロントハノイでも感染者が確認される。香港のホテルで感染していたのだ。
やっと病気のことを認める中国政府だが、WHOが視察に入ると、患者は移動させられていた……
命がけでサンプルを香港に密輸する研究者、最善を尽くしながらも倒れる医師、世界各地でウイルス分離競争、内部告発者、中国の隠蔽体質を暴こうとするジャーナリストたち、その間も世界規模で増えていく感染者。
ウイルスの正体は? そして、人類はそれに勝つことができるのか?

こう書くと、まるでサスペンス巨編ですが、お察しのとおり、まだ記憶に新しいSARS禍を描いたノンフィクション。
作者は『タイム・アジア』の編集長で、当時香港在住、編集部は中国政府がSARSを認めるのに大きな役割を果たすことになる。


大げさな脚色はなく、淡々とした筆致なんだけど、毎日感染者と死亡者がカウントされていくのを見ていると、それが、かえって背筋を冷たくする。よく日本は助かったよなぁ。
その感染力と高い致死率は本当に恐ろしいんだけど、それ以上に、中国政府は悪者過ぎて、もはや漫画。自国民の命を無視するんだから、そりゃ、デブリも撒き散らしますわな。
中国政府は非人道的なんだけど、現場の医師たちは助けようと必死で、世界中でも、治療チームに加わるのを拒んだ医療従事者の例は少ないそうだ。ノンフィクションだからしょうがないけど、ウルバーニ医師のエピソードはかなりの衝撃。彼らの人を救おうとする姿は感動的。
SARSの猛威は突然やむ。しかし、その原因は不明で、いつ、また現れるのかもわからない。人類が助かったのは運がよかったのに過ぎない。
今回を教訓に、次は効率よく戦うことができるのだろうか?