BLACK EVENING

苦悩のオレンジ、狂気のブルー (柏艪舎文芸シリーズ)

苦悩のオレンジ、狂気のブルー (柏艪舎文芸シリーズ)

『苦悩のオレンジ、狂気のブルー』デイヴィッド・マレル〈柏艪舎〉読了
ランボー』の原作者の短篇集。
分厚いんで、年末からちょろちょろ始めて、やっと読了。

 収録作品
・『滴り』The Dripping
・『パートナー』The Partnership
・『ブラックイブニング』Black Evening
・『ひそやかな笑い声』The Hidden Laughter
・『タイプライター』The Typewriter
・『うかつな読者を陥れる罠』A Trap for the Unwary
・『背後に絶えず聞こえるのは』But at My Back I Always Hear
・『嵐』The Storm
・『贖罪』For These and All My Sins
・『白と黒、それに一面の赤』Black and White and Red All Over
・『マンボー・ジャンボー』Mumbo Jumbo
・『ダマスコへの道』The Road to Damascus
・『再来』Dead Image
・『苦悩のオレンジ、狂気のブルー』Orange Is for Anguish, Blue Is for Insanity
・『墓から伸びる美しい髪』The Beautiful Uncut Hair of Graves
・『慰霊所』The Shrine

ホラー短篇集で、サイコなものと超常的なものが半々。
ホラー映画でよくある、「そこを覗き込んだら絶対ヤバイって!」というシチュエーションの作品ばかり。
追究しなければ、幸せでいられたはずなのに、秘密を明かそうとしたばかりに破滅していく主人公たち。


お気に入りは、
・『滴り』
 家に帰ると、妻と娘の姿が見えない。
 老いた母は怪我を負っているらしく、放心状態。
 地下室に行くと、そこは牛乳が一面に滴っていた。
 何者が? そして妻たちはどこに?
 部屋が牛乳まみれになっているというヴィジュアルは、この短篇集で一番印象的かも。
・『ブラックイブニング』
 老婆が住んでいる家から異臭がするという通報で向かうと、
 彼女は自殺しており、死後かなり経っていた。
 しかも、そこには子供の死体も見つかり、
 今までにたびたび起きていた失踪事件の犯人であることもわかる。
 しかし……
 かなり後味が悪い。
・『ひそやかな笑い声』 
 引っ越してきた夫婦。
 しかし、今は空き家になっているはずの以前の家の中から子供の笑い声が聞こえるらしい。
 気になった妻が様子を見てくると行ったまま戻らない。
 その行方はしれず……
 『トワイライトゾーン』っぽいかな?
 かなり薄ら寒く、もの悲しい短篇。 
・『背後に絶えず聞こえるのは』
 大学で授業を持っている主人公。
 一人の女生徒が、先生はテレパシーで自分と寝たいと伝えてきているという。
 無論、そんなことはしていないのだが、しばらくして、彼女は学校を辞める。
 しかし、夜中に電話がかかってきて……
 サイコものと思わせておいて、やはり、サイコものかな?(違う意味で)
 マレルは永年大学で教壇に立っていたことがあり、実体験に基づいた短篇だとか。
・『贖罪』
 車も故障し、道に迷ってしまった男。
 寂れた町にはいると、そこの住人はまるで相手にしてくれず、そして全てひどい奇形の持ち主ばかり。
 ただ一人、ウェイトレスだけが食事を出してくれたが……
 町の存在理由も、ラストもおぞましい。
・『苦悩のオレンジ、狂気のブルー』
 ある画家の研究を進める美大生。
 しかし、突然姿を消し、1年後に姿を見せる。
 その絵に込められた秘密を見つけたというのだ。
 彼は、なぜそんな絵を描いたのか知るために、
 画家と同じ足跡を辿らなければ判らない、と旅立つ。
 再び会ったとき、彼はその画家と同じように両目を潰して自殺していた。
 友人は何を見つけたのか、それを探ろうとするが……
 ゴッホをモデルにした作品。
 題名の鮮やかさは、『白と黒、それに一面の赤』と双璧。
 ゴッホの筆致のイメージ、ラストのオチもいいんだけど、
 その理由がイマイチ……
・『慰霊所』
 1年前に妻と息子を亡くした警察署長グレイディー。
 今も悲しみを癒せないでいる。
 そんなある日、同じように子供を亡くした親の会で出会い、
 親身になってくれた親友夫婦が自殺する。
 さらに悲しみに暮れるが、その手には、グレイディーを呼んで欲しいという書き置きが。
 彼は二人が自殺した別荘の存在さえ知らなかったのだが、はたして、どういう理由で……
 実際に息子が亡くなった後に描いた作品で、かなり読んでいて悲痛。


まえがき〜本文〜あとがきで、マレルが恐れるテーマがわかるのも、うまいなぁ。
一人だけの軍隊 ランボー (ハヤカワ文庫)』も読んでみようかなぁ。

他の方の感想
keikeiさん