DOWN AND OUT IN THE MAGIC KINGDOM

マジック・キングダムで落ちぶれて (ハヤカワ文庫SF)

マジック・キングダムで落ちぶれて (ハヤカワ文庫SF)

『マジック・キングダムで落ちぶれて』コリィ・ドクトロウ(ハヤカワSF)読了

記憶のバックアップとクローン技術によって、不死が達成された未来。
そこでは、〈ウッフィー〉と呼ばれる社会への貢献度に価値があり、それが金の代わりとなっていた。
ジュールズは100年以上生き、今は自分の15%の年齢のリルとともに、ディズニーワールドに暮らしている。
ディズニーワールドはアドホックと呼ばれる、ボランティアによって運営され、
彼らはリバティ・スクウェアを受け持つ一員だった。
そんなある日、ジュールズは何者かに殺される。
目覚めると、革新派のデブラ率いるチームが大統領ホールを改装している真っ最中。
どちらかというと保守的なアドホックに対して、自分が殺された動揺の隙を狙って、
デブラたちはリバティ・スクウェアに乗り込んだと考えたジュールズは、
彼らにディズニー・ワールドを乗っ取らせないよう、対抗してホーンテッド・マンションのリニューアルを計画。
しかし、それが混乱と転落のはじまりで……

長篇は初訳のコリィ・ドクトロウの、2004年度ローカス賞長編部門受賞作。


天使墜落 (上) (創元SF文庫)』や『暗黒太陽の浮気娘 (ミステリアス・プレス文庫―ハヤカワ文庫 (10))』に続く、オタク小説かと思いきや、ちょっと違った。


不老不死の世界になっても、ディズニーオタクは無数にいて、
あの、完璧な人工の異世界で、真剣にドタバタやり合っているのは、かなり笑える。
すべては、〈ウッフィー〉獲得のためでもあり、この〈ウッフィー〉システムが笑えない。
人々の脳には端末が埋め込まれており、常にネットに接続されていて、
他人の〈ウッフィー〉を見ることができる。
尊敬されたり、喜ばれるようなことをすれば、投票のような形で〈ウッフィー〉が上がる。
一方、その逆のことをすれば、まさに冷たい視線で、〈ウッフィー〉はなくなってしまう。
〈ウッフィー〉が低い人間は、尊敬も貢献もされていないわけで、誰からも相手にされなくなってしまう。
この落ちぶれた姿が本当に悲惨。
金さえあれば、好かれていなくても人が寄ってくるような時代はとうの昔のことで、
その人間の価値=物理的な価値が目で見えてしまうと言うのは恐ろしい。
いや、その社会システムの方が人間的なのかな?


ディズニー・ワールドの描写も楽しい。
バーチャルがあっても、ディズニー・ワールドは人を引き寄せる。
常にディズニー・ワールドは現実から離れた場所。
この辺に作者の思い入れがありそう。
本場には行ったことないけど、向こうには大統領ホールなんてのがあるのね。
バックヤードは羨ましい。
ホーンテッド・マンションの中は、バギーでなくて歩いてみたいよなぁ。
いちいち描写が細かくて、ホーンテッド・マンションに行きたくなる。


不老不死なのに激動の大冒険が出て来るわけでもなく、
ディズニー・ワールドの夢の世界と、シビアな〈ウッフィー〉システムが同居した、不思議な小説。
水玉螢之丞さんの表紙もいい感じ。


ホーンテッド・マンション好きには是非オススメ。