THE LOST

黒い夏 (扶桑社ミステリー)

黒い夏 (扶桑社ミステリー)

黒い夏ジャック・ケッチャム〈扶桑社〉読了


昨今の社会情勢から、てっきり自主規制がかかったのかと思っていた、
ケッチャムの久々の新刊!


なんの理由もなく、キャンプ場に来ていた二人の少女を撃ち殺したレイ。
刑事のチャーリーとエドは、最初から彼を疑っていたが、証拠がなく逮捕できなかった。
4年後。
レイは麻薬とセックスに明け暮れるだけで、特に何も起こさない。
チャーリーは、レイがボロを出すようにプレッシャーをかけるが……


あらすじだけだと、割とおとなしめ。
……いやー、やっぱり初っ端から狂ってました。
後味も悪いし(いいのないけど)


今までと比べて、登場人物が多い。
全体の3分の2くらいまでは、それぞれの生活や、
暗い過去も含めて、キャラクター造型がかなり描かれていて、
それが「殺されないで!」と「どんなひどい目に遭うんだろ……」
という相反した感情移入をすることに。
特に主人公と言えるレイは、短期で偏執的、女と麻薬のことしか頭になく、
プライドが異常に高い様子が積み上げるように書き込まれ、
物語が進むに連れ、彼の中で圧力が高まり、ひび割れれていく様子がわかり、ひどく緊張させられる。
そして、ついに爆発し……


ちょっと平野耕太の『ガンマニア』を思い出しちゃった。
漫画化してくれないかな(笑)


いつものように犯罪の理由は描かれない。
この作品も、ラストに至る過程は細かく描かれているけど、
最初のキャンプ場での事件の理由は書かれず、レイの人格形成も全く描かれない。
ケッチャムは天才だと思うんだよねぇ。
悪も正義も語らず、ただ単に起きている鬼畜な事柄だけを描写する。
しかも、救いのないラスト(『老人と犬 (扶桑社ミステリー)』は例外か)


よく、本の売り文句に徹夜本って使われるけど、ケッチャムはまさにそれ。
読み終わるまで安心できない。
ちなみに、オススメもしない。