VOICE IN THE DUST OF ANNAN and Other Stories

廃墟の歌声 (晶文社ミステリ)

廃墟の歌声 (晶文社ミステリ)

『廃墟の歌声』ジェラルド・カーシュ晶文社〉読了。
スタージョン同様、幻の作家だったカーシュも、
一昨年から、晶文社が新刊を出してくれて読めるようになった。


晶文社河出書房新社国書刊行会、となんだか、
SFの翻訳状況が近来稀に見る騒がしさ。
これで扶桑社も頑張って幻シリーズを出し続けてくれれば文句なし。 


収録作品は
『廃墟の歌声』
『乞食の石』
『無学のシモンの書簡』
『一匙の偶然』
『盤上の悪魔』
『ミス・トリヴァーのおもてなし』
『飲酒の弊害』
『カームジンの銀行泥棒』
『カームジンの宝石泥棒』
『カームジンとあの世を信じない男』
『重ね着した名画』
『魚のお告げ』
『クックー伍長の身の上話』
の13作品。


ハリウッド映画とかで、
「なあ、みんな聞いてくれよ、こんな話が……」てな感じで、
アメリカンジョーク(下ネタ)を披露する場面があるけど、
カーシュの作品はまさにそんな風に始まる。


表題作の『廃墟の歌声』
男が、ある廃墟に行ってみたいという。
その近くに住んでいる酋長はそれだけはやめておけと止めるが、彼は廃墟に向かう。
そこは以前は町だったのが、今や遺跡と化していて、掘ると様々な遺物が出てくる。
夜、彼のテントに人間に似たこびとが現れる。
酋長が恐れていたものの正体はこれらしい。
どうやら、彼らは地下に潜んでいるらしく……
個人的にはイイマチ。
パターンとしては『壜の中の手記』所収の『骨のない人間』と似ているかな。
そっちの方が面白かった。


お気に入りは
・『無学のシモンの書簡』
キリストを信仰するシモン。 
彼は異教徒の元に布教しに行くが、そこで半殺しの目にあって砂漠に放置されてしまう。
それを助けてくれた不思議な男の物語。
かなり笑える。ギャグ?
・『一匙の偶然』
たまたま入った食堂。
愛想もサービスも悪い店主だったが、
出てきたスプーンは、以前贔屓にしていた店のものを使っていた。
そこから、店主と今はないその店の想い出話が始まる。
題名通り偶然の話なんだけど、それがぴしっとはまってて、気持ちいい。
・『飲酒の弊害』
とある精神科医のパーティで交感苦痛の話をしていると、
ドクター・アルナムはもっと凄いのを診たことがあると話し始めた。
精神療法がはやってた頃なのかな?
なんか小馬鹿にした感じ。かなり好きです。
・『クックー伍長の身の上話』
従軍記者の私が船のの中で出会ったクックーという男は、
全身が傷だらけで、しかもすべてが致命傷のようなひどいものばかり。
実は、彼は400年以上も生きているというのだが……
ちょっと違うけど、ゾッドみたい。
・『カームジン』シリーズ
稀代の大天才犯罪者かはたまた大法螺吹きか、
カームジンの語る鮮やかな犯罪の数々。
カーシュ自身が気に入っていたキャラクターらしく、十数話書かれているとか。
特に気に入ったのは『カームジンの銀行泥棒』と『カームジンの宝石泥棒』。


前回の『壜の中の手記』のような薄気味悪い話はむしろ少なくて、
落語みたいな小咄が多かったような読後感。
『カームジン』が多かっただけか?
こっちの方が好みかも。


また数年後には入手難、なんてことにならないように、
今の内に買っておきましょう(笑)