Jenny with Wings

翼のジェニー〜ウィルヘルム初期傑作選 (TH Literature Series)

翼のジェニー〜ウィルヘルム初期傑作選 (TH Literature Series)

『翼のジェニー ウィルヘルム初期傑作選』ケイト・ウィルヘルム 〈書苑新社〉

思春期を迎えた、翼のある少女の悩み事とは?――
あの名作長編「鳥の歌いまは絶え」で知られる、ケイト・ウィルヘルムの初期から、傑作と名高い表題作のほか、未訳中篇など8篇を厳選。
ハードな世界設定と幻想が織りなす、未曾有の名品集!


収録作品
「翼のジェニー」
「決断のとき」
「アンドーヴァーとアンドロイド」
「一マイルもある宇宙船」
「惑星を奪われた男」
「灯かりのない窓」
「この世で一番美しい女」
エイプリル・フールよ、いつまでも」

古い恐怖小説を精力的に刊行してくれている書苑新社/アトリエサードによる新叢書(になるといいなぁ…)が、まさか、ケイト・ウィルヘルムの短編集とは!
たくさん訳されてるわけでもなく、「たんぽぽ娘」のような注目をされたわけでもないのに、渋いところを攻めてきたなぁw 
しかも、半分初訳!


気に入ったのは、
「翼のジェニー」
非常に愛らしい物語で、これを嫌いな読者は少ないでしょう。SFものはロマンチストだからw
ウィルヘルム作品の中でも名高いこともあるけど、これを表題作とトップに持ってきたのは正解だと思う。
ヤングの「たんぽぽ娘」(1961)と同時期(1963)の作品なのに、感触がかなり違うのが印象的。何度も言ってるけど「たんぽぽ娘」嫌いなんだよねw
50年以上前の作品だけど、白馬の王子を待つのではなく、自分から文字どおり飛んで探しにいてしまうのは近年のディズニー作品を彷彿とさせる。


「惑星を奪われた男」
これは納得いかないんだよなぁ。
かつての乗組員が全滅したのは彼のエゴではなく、メンバーの総意で、彼でも喜んで犠牲になったんじゃないの? 誤読してる?
それで、一人責任を負わされて、地上に降りられないってカワイソすぎるよなぁ…


「この世で一番美しい女」
解説にもあるように、ダークファンタジーともサイコホラーとも、判然としない物語。
ただ、どらの世界でも、主人公の女性は幸せでなく、常に「男性の目」に束縛されている。
気の休まる瞬間のない窮屈さは、ウィルヘルム自身が感じていたことなのか?


エイプリル・フールよ、いつまでも」
流産を経て、神経質になっている女性の妄想か、はたまた人類の存亡をかけた陰謀か……
ラストはどう読むか。
作中で「エイプリル・フール」は生命の日として登場するから、ジュリアたちのような人間によって、人類は再び繁栄するのか。
それとも、全てが見えているのは作中ではジュリアだけ。やはり旧人類が滅びるのが見えているけど、優しい嘘をついたか。感情の芽を新人類に残して。永遠に変わり続ける彫刻を夫にプレゼントするのも気になるんだよなぁ。


ジェンダー系と受け取れる作品が多いのは事実だけど、同時に『トワイライトゾーン』的触感が残る作品も多い。「決断のとき」は『トワイライトゾーン/超次元の体験』*1の「偏見の恐怖」(ヴィック・モローのやつね)を思い出した。


今後もSFを続けてほしいので、みんな読もう!