Whiskey & Jorkens

ウィスキー&ジョーキンズ: ダンセイニの幻想法螺話

ウィスキー&ジョーキンズ: ダンセイニの幻想法螺話

『ウィスキー&ジョーキンズ ダンセイニの幻想法螺話』ロード・ダンセイニ国書刊行会

初老の紳士ジョーキンズがウィスキーを片手に、実話と称して語り出す若かりし日の思い出――幻獣に出会い、魔術に驚異し、一獲千金に胸躍らせる、奇想天外な冒険の数々。香り豊かで軽やかなテイスト、心地よい後味にほろ酔い気分。どこから読んでも楽しめる愉快な短篇23作。


収録作品
「アブ・ラヒーブの話」
「薄暗い部屋で」
「象の狙撃」
「渇きに苦しまない護符」
「失なわれた恋」
「リルズウッドの森の開発」
「真珠色の浜辺」
「アフリカの魔術」
「一族の友人」
「流れよ涙」
「ジョーキンズの忍耐」
「リンガムへの道」
「ライアンは如何にしてロシアから脱出したか」
「オジマンディアス」
スフィンクスの秘密」
「魔女の森のジョーキンズ」
「ジョーキンズ、馬を走らせる」
「奇妙な島」
「スルタンと猿とバナナ」
「徴」
ナポリタンアイス」
「ジョーキンズ、予言者に訊く」
「夢の響き」

ロード・ダンセイニと聞くと、ファンタジー、妖精という言葉がまず浮かぶ。
まぁ、胸はってそんなこと言えるほど読んでないし、そもそも、まるまる一冊読んだ『二壜の調味料』*1がイマイチはまらなかったんだよなぁ。
本書も内容はよく知らなかったんだけど、豆本プレゼント(外れた…)とcocoさんの表紙に惹かれて着手。


俺が好きなやつじゃん!


ホントか嘘かわからない、軽妙な小咄系短編集。
正体不明のおっさんの語りということで、『犯罪王カームジン』*2と感触が近い。
しかし、カームジンが甚だしく胡散臭いのに対して、ジョーキンズのそれは、どこかほろ苦い後味を残す。酒臭いんだけどw


まことしやかな法螺話、もしくは、法螺にしか聞こえない実体験を話しているのかもしれない。
それをどう受け取るかは聞き手次第。
ジョーキンズが時折見せる、韜晦するような表情は、彼の過去の冒険を物語っているようにも思える。


真珠の海岸やスフィンクス、魔女の森に月ロケット、とジョーキンズの抽斗は無数。
「アフリカの小石というのはイギリスの馬くらいの大きさなんだ」とさらっと出てくる法螺っぷりや、「聖書には出てこないって? じゃあ、誰か出てくる人だ」なんて適当さが、ほろ酔いで、舌がなめらかになったジョーキンズの姿が浮かぶようで楽しい。
クラブでの披露が多いけど、他の場所だったり、語り手が別人のこともあって、たまに出てくるそれらのアクセントもちょっとお得な気分。


みんな面白いんだけど、特にお気に入りは、
「薄暗い部屋で」
こどもに、虎に追われた話をするジョーキンズ。
その結末は?
何と言っても、ラストがたまらない。


「リルズウッドの森の開発」
リルズウッドの住宅に牧神パンが現れる。
そこに暮らす老兄妹は、彼を使用人として家に入れるが……
ギリシア人を見て、その場で即興で話してるに違いにないんだけど、あまりによどみない。
もしかして、実話なのかもw


「真珠色の浜辺」
真珠で出来た浜辺を見つけたジョーキンズ。
ポケットいっぱいの真珠を持って行くが……
Twitterの応募では、これをあげました。
オチが、カーシュの小咄と一番近いかなぁ。


「スルタンと猿とバナナ」
ジョーキンズに話をさせまいとするクラブの一派。
彼が来るとすかさず、違う話を始めるが……
何度か出てくる、ジョーキンズの語りを快く思わない連中。
この作品ではそれが成功するものの、読者にはそれがフラストレーションにw


「ジョーキンズ、予言者に訊く」
占い師に競馬の結果を予言してもらったジョーキンズ。
それは的中しており、今度は大金を賭けるために、また予言してもらったところ……
イーガンかチャンの短篇にありそうな。


二巻も是非希望!
ちなみに、ハヤカワFTの『魔法の国の旅人』*3もジョーキンズもの。
昔はなんとももわなかったんだけど、今では、FT版の表紙は違和感がw