WORLD OF TROUBLE

世界の終わりの七日間 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

世界の終わりの七日間 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

『世界の終わりの七日間』ベン・H・ウィンタース〈HPB1902〉

小惑星が地球に衝突するとされる日まであと一週間。妹のニコに、もう一度会いたい――元刑事のパレスは、警官たちが集う〈警察のいえ〉を後にして旅に出る。小惑星の衝突を阻止する方法はあると確信して、地下活動グループと行動をともにしているニコ。今、彼女はどこにいるのだろう? パレスはニコとその仲間たちの痕跡を地道にたどってゆく。終末を目前とした世界を描く、アメリカ探偵作家クラブ賞受賞作『地上最後の刑事』、フィリップ・K・ディック賞受賞作『カウントダウン・シティ』に続く三部作の完結篇

三部作を通して、徐々に地球に近づいてきていた小惑星も、ついにあと一週間の距離に。


アルマゲドン*1のようにヒーローが小惑星を破壊して、地球を救う展開になったのなら、物語としては台無しだけど、頑固なまでにそれまでの生活と職務を変えようとしないパレスを見ていると、彼らが助かることを祈ってしまうんだよね。


そのハリウッド的奇蹟を信じる妹ニコと意見の相違で分かれてしまったパレスは、地球最後の一週間を彼女の捜索と再会に費やすことに決める。
ここで明かされる真相、新たな事件、しかしあまりに時間がなさすぎる。
それでもペレスは事件を追う。


狂った世界で、頑なまでに「真面目な刑事」であることを選ぶパレスは、狂っているといえるかもしれない。
でも、その変わらなさに理想の人間性を感じてしまう。
第二部『カウントダウン・シティ』*2がポストアポカリプス的狂騒感があったのに対して、そのアクが抜けきったかのように、最後の一週間になった世界は穏やかなまでに静寂。
そこに出てくる数少ない登場人物もまた、穏やかに、人生を送っている。
自暴自棄になることなく、明日が来るかのように終末を迎える姿は『渚にて*3を思い起こさせる。
世界がどうなろうと姿勢を変えないペレスが、アーミッシュの一家のもとにたどり着くのは必然。


ラスト一行、誰も見たことがない情景を前にした、勇気と愛と高潔なる人間性の勝利に息を呑む。