ANGEL MAKER

エンジェルメイカー (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

エンジェルメイカー (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

『エンジェルメイカー』ニック・ハーカウェイ 〈HPB1896〉

大物ギャングの息子として生まれたジョー・スポークは、時計じかけを専門とする機械職人として静かに暮らしていた。しかし、彼が謎の機械を修理した日にすべてが変わった。客の老婦人は引退したシークレット・エージェント、謎の機械は第二次世界大戦直後に開発された最終兵器の鍵だったのだ! そしてさまざまな思惑を持つ人々がジョーの周囲で暗躍をはじめた……愛する者を悪の手から守り、世界を滅亡から救うため、ジョーは父の銃を手に立ち上がる! 笑いと切ない抒情に満ちた傑作エンターテイメント・ミステリ

あのヘンテコ小説『世界が終わってしまったあとの世界で』*1の作者による第二長編。


厚い! 重い! 疲れる!(物理的に)
書痴として、ポケミス読むときはビニールカバー外してから布カバーで読んでるんだけど、流石に今回は布カバーに入らず、かと言って生だと本体が痛むので、ビニカバをつけて。
寝転がって読書するんで、ビニカバは持ちにくいんだよなぁ。
ポケミスの限界的製本だけど、上下巻って今までないの?


もし、ポケミスを全て読んでいる人がいるならば(知り合いの知り合いくらいにいそうで怖いw)、1900冊の中でも、トップクラスにポケット「ミステリ」から浮いていると言うに違いない一冊(物理的な厚さという意味も込めて)
『コンピューター検察局』*2や『魔術師が多すぎる』の方がよほどミステリだよなぁ。
かと言って、銀背から出すのはやはり違う。〈機関〉の仕組みがほとんど語られず、ブラックボックスのままなのは、SFとは呼びがたい。
文庫なら、やはり間違いなくハヤカワNV。


敬愛される犯罪王だった父を持つジョー。
彼自身は時計じかけを得意とする機械職人として、地味な日々を送っていた。
そんな彼のもとに、人間離れした技巧の謎の機械が持ち込まれ、それを追うようにして、怪人物たちが現れ、ジョーは否応なく世界を賭けた戦いに巻き込まれることに……


機械職人というだけでワクワクするのに、始まってすぐに、盗品の古い機械で埋め尽くされた博物館や、犯罪者たちが地下に集う〈夜の市場〉、金属の蜂を収めた巣箱など、中二心くすぐるガジェットが目白押しで非常に楽しい。
ただ、はじめはゼンマイを巻くかのごとく、ゆっくりとしか読み進められない。重いし。
それが中盤過ぎると、一気にハイギア!


ギャングの父を持つ男の冒険で、ピカレスクロマンといえるのかもしれないけど、個人的にはアメコミ的ヒーローものという印象。
ジョーはあくまで犯罪王の威を借りようとはしないけど、世界を守るために自分の出自を受け入れ、覚醒するシーンは、『アンブレイカブル*3でレインコートマン(仮名)が覚醒して画面の色調が変わるシーンと完全にオーバーラップ。


父親の愛銃が時代錯誤なトミーガンという時点で「あれ?」と思ったんだけど、ジョーの物語と並行して語られる、男装のスパイ、イーディの冒険がもうおかしい。
彼女のライバルが、ミン皇帝かフー・マンチューもかくや、と言わんばかりのシェム・シェム・ツィエンって、完全にパルプのノリ。


パルプ・フィクションと言えば、『世界が終わってしまったあとの世界で』同様、こちらにも東洋の武術が登場。
かの監督と同じ遺伝子を持ってるのかなw


科学廃棄物貨物列車セックス、残酷な拷問者、老鬼軍曹的パグ、とエログロナンセンス+αでなんでも揃っていて、往年のパルプ小説を21世紀的にブラッシュアップさせたのがこの作品。
最近は麻薬と経済ヤクザと猟奇殺人ばかりで、往年の華麗な犯罪と冒険をまたお目にかけたいよね、というキャラクターの行動はそのまま作者のテーマにもなってる気がする。
登場人物も、おかしい人間と物凄くおかしい人間しか出てこないので、ご安心をw
やっぱりバスチョンですよw


フランキーが死んだシーンは出てこないよね? 
シェム・シェム・ツィエンも復活して、続編希望。