GENE WOLFE'S BOOK OF DAYS

ジーン・ウルフの記念日の本』ジーン・ウルフ国書刊行会 未来の文学17〉

〈収録作品はいわゆるSFだが、多くはそう思ってもらえないタイプのSFで、明らかに地球外を舞台にしているのは「ラ・ベファーナ」と「住処多し」だけ。何篇かはユーモアものであるとはいえ、私のユーモアのセンスは屈強な男を失神させ、女性に凶器を取らせるような代物である……〉(まえがきより)出来損ないの世界でのビジネスマンの凝縮された一生を描く不条理中篇「フォーレセン」、ビーター・パン由来の死のイメージが散りばめられた不気味な一作「取り替え子」、車が◯◯する話「カー・シニスター」、クリスマスイヴの新旧おもちゃの攻防戦「ツリー会戦」など〈言葉の魔術師〉ウルフが華麗な文体と技巧を駆使して贈る、予測不可能な物語と知的仕掛けに満ちた初期短篇全18篇を収録。


収録作品
「鞭はいかにして復活したか」
「継電器と薔薇」
「ポールの樹上の家」
「聖ブランドン」
「ビューティランド」
「カー・シニスター
「ブルー・マウス」
「私はいかにして第二次世界大戦に敗れ、それがドイツの侵攻を防ぐのに役立ったか」
「養父」
フォーレセン」
「狩猟に関する記事」
「取り替え子」
「住処多し」
ラファイエット飛行中隊よ、きょうは休戦だ」
「三百万平方マイル」
「ツリー会戦」
「ラ・ベファーナ」
「溶ける」

祭日や記念日に関連付けて編まれた、ジーン・ウルフの短篇集。


ジーン・ウルフの短篇というと、あの、バカでも超絶技巧が繰り広げられているのがわかるような気がするw「アメリカの七夜」*1がまず頭に思い浮かぶ。
あれを期待(警戒)していると、存外、スラスラ読み進められちゃう。
ただ、深読みしようと思えばいくらでも出来るようで、言葉遊び、隠喩、ほのめかし、歴史(伝説 or ポップカルチャー etc...)的背景など、単語ひとつひとつを精査していく仕掛けが施されている。
そんな深読み面倒くさいよ、という向きは、表面的に物語をなぞるだけでも不気味で、奇妙な世界を味わえる。
だけど、逆に言うと、深読みしないと結構淡白な読書になってしまうかもしれない。


無理矢理、収録作の傾向をまとめるのなら、「祭日や記念日」というテーマどおり、記憶にまつわる話が多いかなぁ、という感じ。
しかし、やはり「祭日や記念日」の元々の意味が薄れていってしまうように、作中の人物の記憶も齟齬があり、あてにならい。


お気に入りは、
「カー・シニスター「私はいかにして第二次世界大戦に敗れ、それがドイツの侵攻を防ぐのに役立ったか」は割と普通のSFで、素直に楽しめる。


「養父」
個人的には、主人公が、自分の理想の家族を探し続けている話だと読みました。
もしくは、下の階が、もう一つの家庭なのかも。自分がそれを覚えていないだけで。


「取り替え子」
『ピース』*2と同じ舞台ということで有名(?)な作品。
『ベスト・フロム・オービット』*3で既読なんだけど、何回読んでも釈然としないし、それが気味の悪さにつながっている。
不老不死のピーターの存在も不思議だけど、そもそも、この主人公(語り手)は本当に、この街の出身なのか、明確な証拠がないんだよね。
ピーターと関係ない、子供の頃の記憶も実は曖昧で、相手と話している内に思い出す、という描写。
唯一、彼のことをはっきり覚えているのがピーターの母親だけど、「その他大勢」というくくりの記憶なんじゃないかと穿って見ちゃう。


「ラ・ベファーナ」
初読時はぴんとこなかったんだけど、再読して面白さが。
この老婆が、本当に魔女なのか、それとも魔女だと思い込んでいるだけの老女なのかはわからないけど、どちらにせよ、常軌を逸しているのは確か。
個人的には、本当の魔女で、今度こそ、キリストの誕生に立ち会えると思いたい。
舞台は惑星〈ベツレヘム〉w
ベツレヘム聖人が6本足なのは、三賢者と同じ数、とか、いくらでも深読みごっこはができるのは全作共通。