怪奇文学大山脈〈III〉

『怪奇文学大山脈〈III〉 西洋近代名作選 諸雑誌氾濫篇』荒俣宏・編〈東京創元社

西洋怪奇小説の山脈は、無尽蔵の宝の山である――豊饒なる鉱脈に眠る傑作群の紹介と翻訳に尽力した、21世紀を代表する碩学荒俣宏。その幻想怪奇にまつわる膨大な知識の集大成ともいうべき巨大アンソロジーをお届けする。飽くなき探求の果てに見出された、稀なる名作を全三巻に集成した。
第三巻では、世紀末パリで生まれたグラン・ギニョルの中から、〈恐怖王〉と呼ばれたアンドレ・ド・ロルドやガストン・ルルーの戯曲のほか、パルプ・マガジンの時代を駆け抜けた知られざる作家たちの作品――ラヴクラフトとの交流で知られるE・ホフマン・プライスの「悪魔の娘」、三千に及ぶ作品を執筆したとされるロバート・レスリー・ベレムの「死を売る男」など、都市大衆を熱狂させた全21篇を収録。編者による詳細なまえがき・作品解説を付す。
 

収録作品
「枷をはめられて」……スティーヴン・クレーン
「闇の力」……イーディス・ネズビット
「アシュトルトの樹林」……ジョン・バカン
「蝋人形小屋」……グスタフ・マイリンク
「舞踏会の夜」……カール・ハンス・シュトローブル
カミーユ・フラマリオンの著名なる『ある彗星の話』の驚くべき後日譚」……アルフ・フォン・チブルカ
「ラトゥク――あるグロテスク」……カール・ツー・オイレンブルク
「赤い光の中で」……モーリス・ルヴェル
「物音・足音」……野尻抱影
「悪魔を見た男」……ガストン・ルルー
「わたしは告発……されている」……アンドレ・ド・ロルド
「幻覚実験室」……アンドレ・ド・ロルド&アンリ・ボーシュ
「最後の拷問」……アンドレ・ド・ロルド&ウジェーヌ・モレル
「不屈の敵」……W・C・モロー
「ジョン・オヴィントンの帰還」……マックス・ブランド
「唇」……H・S・ホワイトヘッド
「悪魔の娘」……E・ホフマン・プライス
「責め苦の申し子」……ワイアット・ブラッシンゲーム
「死を売る男」……ロバート・レスリー・ベレム
「猫嫌い」……L・ロン・ハバード
「七子」……M・E・カウンセルマン

楽しませていただいた、大アンソロジーもこれでおしまい。
第三巻は、読み捨てされてきたような雑誌に掲載された作品が中心。
けばけばしく、エログロ、センセーショナル先行で、当時の読者からもすぐ忘れられてしまうような、俗悪な作品たち。
だが、それがいい……


残念だったのは、楽しみにしていたグラン=ギニョル作品が、ほとんど『グラン=ギニョル傑作選』*1で既読だったこと。
天知茂の土ワイにハァハァした幼年期を送ったものとしては、グラン・ギニョルの紹介、邦訳は期待したいなぁ。


無理矢理、収録作品の特徴を言うならば、そういう時代だったのか、チョイスがそうなったのかはわからないけど、恐怖の理由がスーパーナチュラルなものが減り、異常心理、狂気そのもが理由になっているものが増えてくる(事実、1920年アメリカでは、ユングフロイトの心理分析流行ったし)。
それらは、こういう目になったら怖い、というシチュエーションホラーの走りにも見える。
また、異国(西欧以外)の物語もエキゾティズムだけでなく、根底に差別問題(らしきもの)ものも見えてきたり。


お気に入りは、
「枷をはめられて」「闇の力」「蝋人形小屋」「赤い光の中で」「唇」「責め苦の申し子」あたり。
そして、毎度のことながら、まえがき・作品解説は必読。