THE LAST MINUTE

最後の1分

最後の1分

『最後の1分』エレナー・アップデール〈東京創元社

クリスマスを控えたある日、ヒースウィックの町で連続爆発事件が起きた。主な原因は事故発生から半年を経ても明らかになっていない。クリスマスに娘が会いに来るのを楽しみにしている老人、一世一代の大葬儀を控えた葬儀会社の経営者、次期選挙を控えた不倫中の政治家、就職活動中の冴えない若者、そして……。ひとりひとりの登場人物たちの人生の一コマが、一分というものすごく限られた時間のなかに凝縮し、見事に描かれた野心作。

爆発事件が起きる街角にいた人々を、その一分前から、短い60章で描き出す。
空間を切り取った、定点観測的構成は、『人生使用法』*1パスカル・ラバテのBD『Fenetres sur rue』に近いか?(前者は未だ積まれてますが……)


また、同じく東京創元社から出た『探偵ブロディの事件ファイル』*2にも通じるものを感じた。
事故の犠牲者それぞれに人生があり、必然にせよ偶然にせよ、その瞬間に居合わせてしまった理由がある。
公に語られるべきではないのかもしれないけど、遺族は、彼らの思い出から犠牲者がそこにいた理由を類推することによって、怒りのぶつけどころや慰めを見出すしかない。


しかし、犠牲者は自動的に「善人」になってしまうけど、当然、全員が聖人であるはずもなく、その本性が読者だけには俯瞰できる。
また、同時に、爆破事件によって、善良だろうが意地悪だろうが正体不明だろうが、「犠牲になった」という事実の下ではあらゆるものが平等。にもかかわらず、物語の性質上、感情移入するキャラクターはいるわけで、「こいつが生き残っちゃうのか〜」(その逆もあり)と、生存者と犠牲者の差異は運でしかないことを痛感させられる。


それが「最後の1分」
街角にいた様々な人々の人生が凝縮されて語られる60章ではあるんだけど、60秒ずれていれば、生存者と犠牲者は大きく変わっていたかもしれない。
彼らは、当然、爆発の瞬間まで、死ぬとは思っていない。
その60秒に、命の儚さと人生の大切さが込められているような気がする。