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その女アレックス (文春文庫)

その女アレックス (文春文庫)

『その女アレックス』ピエール・ルメートル〈文春文庫ル6-1〉

おまえが死ぬのを見たい一男はそう言ってアレックスを監禁した。檻に幽閉され、衰弱した彼女は、死を目前に脱出を図るが……しかし、ここまでは序章にすぎない。孤独な女アレックスの壮絶なる秘密が明かされるや、物語は大逆転を繰り返し、最後に待ち受ける働突と驚愕へと突進するのだ。イギリス推理作家協会賞受賞作。

全くチェックしてなかったんだけど、評判いいし、長い付き合いの本仲間が褒めてたんで着手。
うん。噂に違わぬページ・ターナー


突如拉致監禁される女性アレックス。
犯人の正体は? 目的は?
彼女は無事助かるのか!?


……というのは単なるプロローグ。
ここから、ひらりひらりと予想外の展開に。
予想外の展開と言っても、宇宙人とかタイムトラベラーは出て来ないのでご安心を(そういうの読み過ぎ)


宙にぶら下がった小さな檻に閉じ込められ、飢えたネズミを放たれるという鬼畜展開!
ケッチャム的なやつか!? と期待していると、彼女は3章中の第1章で見事脱出に成功する。
これはネタバレでなく、上記したようにプロローグに過ぎない。


この作者は巧みで、1章で言うなら、「彼女は助かるのか!?」という他の小説ならクライマックスであるはずの事柄が、ミスディレクションになってるんだよね。
読者はそこだけに注目するけど、捜査班のカミーユ警部同様、彼女の正体がまるでわからないことに1章が終わって初めて気づく。
第2章は打って変わって、陰惨な殺人事件。
そして、3章でまた違う「なぜ」が。
章が変わるごとに、アレックスの見方が変化し、理解が深まっていく。


ミステリのサブジャンル横断小説と言っていいのかな。
しかも、それらが自然に、しかし衝撃的に絡み合っている。
味わいの違う各章の要素に意味があり、どこかを外しただけで、物語は成立しなくなる。
各章で違う興奮が得られるのもエンタメとして優等生。


また、物語だけでなく、キャラクター小説としてもよく出来ている。
母親の妊娠中の喫煙のため、子供の背丈しかないカミーユ警部。超短気な、ちっちゃいコロンボというイメージ。
映画化が企画されてるらしいけど、ピーター・ディンクレイジ希望! 
彼の部下が、代々の貴族出身のルイ(『こち亀』の中川っぽいw)と超けちん坊なアルマン。
カミーユの友人であり、上司のル・グェンは女好きの巨漢。
それぞれの言動がまた楽しい。


ラストシーンは『寄席芸人伝』のエピソードを思い出した。あんまり通じなそうだけどw


実は、シリーズものの第二作だけど、これ単品で面白いし、そもそも訳されてないし。
オススメ。